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市長の手控え帖 No.39「臭いのある暮らし」

市長の手控え帖


BSで「山田洋次が選ぶ名作100本」が放映されています。先月「にあんちゃん」を久しぶりに観た。新たな感動に包まれ、涙線もゆるみっぱなしでした。両親に先立たれ、九州の炭坑で暮らす4人の兄弟。長兄は炭坑で働き、長女が家事を切り盛りし、下の兄妹は小学生。物語は末の妹の目を通して流れていく。石炭は斜陽化し、長兄は解雇され、長女とともに出稼ぎへ。兄妹は親切な炭坑仲間に世話になるものの、その家も生活苦。居づらくなり、別の知人宅に預けられるも極貧の暮らし。

ある日、二人は飛び出しもとの炭坑長屋に向かう。途中空腹に耐えきれず、畑に入りさつま芋を盗む。甘く臭う芋を鼻に押しあて生で食べる。夏空、川に飛び込み水浴びに興じ、パンツ一丁で小道をいく。天真爛漫そのもの。にあんちゃんは、力仕事で金を稼ぎ、なんと東京までいく。自転車屋で働きたいと頼むもあえなく送り帰される。兄と妹のたくましさ、けなげさにほろっとした。炭坑に働く人たちの仲間意識は強い。長屋が家族共同体であり、泣き笑いしつつ暮らす人間の臭いが濃厚にありました

炭坑からは歌が生まれました。「月が出た出た月がでた ヨイヨイ 三池炭坑の上に出た あんまり煙突が高いので さぞやお月さん煙たかろ サノヨイヨイ」。ガス・水・落盤の恐怖の中、仕事を終え酒盛りが始まる。酔いとともに口に出る炭坑節。労働の歌、民衆の歌です。

また、「青春の門」「幸せの黄色いハンカチ」「フラガール」といった心に残る小説や映画もできました。石炭から石油、そして原子力へ。エネルギーの現場は生活から遠ざかって行った。膨大な力を生み出す一方で、臭いも色もない放射能を内包する原子力。原発労働からはついぞ、歌も物語も生まれなかった。

生活が豊かになるにつれ、臭いが消えていきました。先月の五箇まつりは、小学生から年配者まで加わる手づくりのイベント。中にもみ殻で釜を炊いているコーナーがあった。もみの燃える音は心地良く、炊きあがった新米の香りは格別でした。大家族だった昔、母は朝早くから大釜でご飯を炊く。プープーと吹きあがる湯気とパクパク上下する蓋の音。すきっ腹にしみこむ香り。また祝い事や年末には餅をつき、心が浮き立つ。目当てはあんこ餅やきなこ餅だが、きねでつく前のおふかしのこうばしさも忘れられない。

冬の教室にストーブ。山から集めてきた松ぼっくりに火をつけ、石炭をくべる。そのまわりに弁当箱を並べる。暖まってくるにつれ、タクアンの臭いがあたりをおおう。誰ともなしに鼻をつまみ、くすくす笑い出す。客を迎えるときは、飼っている鶏の料理でもてなす。熱湯をかけ羽根をぬくのは子どもの仕事。生臭さでむっとするものの、醤油味のかぐわしいトリ肉へ、期待がふくらむ。遊びに夢中の子どもらは、日が暮れる頃、一斉に家へ戻り家事を手伝う。私は馬の餌当番。稲ワラを小さく切り揃え、水とこぬかでまぜる。こぬかの柔らかな手ざわりと優しい臭いを思い出します。

生活の臭いは、家族・友人・郷土と深く結びついて身体の奥深く刻まれ、何かの拍子に懐かしく蘇ってきます。臭いが消えるにつれ、生きている実感も乏しく、人との交わりも薄くなっているように思えます。

災害の中、県ゆかりの有名人に励まされました。中畑清、佐藤B作、飯島直子。中でも際立ったのは、西田敏行。愛くるしい体型、ユーモラスな顔と福島訛りに救われました。30年以上も前、西田さん主役の「写楽考」という芝居を観た。抑揚のある力強い声と達者な芸は、将来性を予感させた。案の定、名優の地位を高めていき、重厚な役から、泣かせ、笑いへと芸風も広がった。これに比例するように体重も増し、いつしか喜劇の似合う大スターになりました。福島弁のアドリブが、随所に出てくるのもいいですね。なじんだ言葉は、ふるさとへの郷愁とともに身体にしまいこまれ、年を重ねるにつれて、雪解け水のように流れ出てくるのでしょう。西田敏行は、今最も臭いがあり、存在感がある役者です。

映画のラストシーン。ニ人はボタ山に登る。兄は「父ちゃんもあんちゃんも貧乏でできなかったことを俺はやる」と決意する。将来を切り拓こうとする強い言葉です。私たちの先祖は幾多の困難をたくましく乗り越えてきました。地震と放射能で苦難の中にありますが、全力で立ち向かってまいります。引き続き、ご支援賜わりますようお願い申し上げます。

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