市長の手控え帖 No.48 「福島の快男児」

市長の手控え帖

天災ならばあきらめる。人災ならばあきらめきれない。国会の事故調査委員会は原発事故を人災と断じ、国・東電に鋭い批判の矢を放った。だが向けられた側に、真摯に向きあおうとする姿勢は見えない。それどころか、十分な検証もなく、おざなりの安全基準を急ごしらえする。そして大飯原発が再稼働。初め威勢のよかった関西自治体の長も、「電気がとまる恐怖」に頬かむり。肝心なことが「あいまい」にされたまま時が流れる。時は悲しみをいやし、生きる力を取り戻してくれる。しかし悲劇の再来を防ぐには、涙のかわかないうちに根本から対策を立てることが必要。残念ながら、その方向性が示される気配はない。

徳島大学が白河市の放射線対策を、専門的立場から支援してくれることになった。同大学は、地方にありながらも、医・工・薬学の理工系が充実し高いレベルを誇る。今月中にも、放射性物質の実体や放射線量と健康との関連について、分かりやすく説明して戴く予定になっている。

徳島で生まれた会社に大塚製薬がある。空港周辺には工場・研究所が立ち、発祥の地鳴門には豪荘な国際美術館もある。オロナイン軟膏が大ヒットし、オロナミンCやポカリスエットは国民的飲料となった。由美かおるら有名女優を宣伝にうまく用い、医療・食料品の大手企業に成長した。

明治末から昭和にかけて、武田薬品や田辺製薬と並ぶ大会社があった。その名は星製薬、創業者は星一。明治6年、いわき市南部の植田に生まれる。明治の初めは、洪水のように欧米の思想や科学が入った。時代の風に吹かれるように、雄飛の志高い青年は上京し、さらにアメリカへ。働きながら大学で学ぶ。むこうで研究に励む野口英世と出会い、同県のよしみもあり、強い友情を結ぶ。また滞米中に新渡戸稲造や伊藤博文らと、帰国後も後藤新平や、広田弘毅らの知遇を得るなど多彩な人脈を築いた。特に新平とは、人生を左右するほどの特別な交わりを結ぶ。

星は薬の将来性を見込み、会社を興す。湿布薬の事業化に成功し、山手線大崎駅前に近代的工場を建設。続いて家庭用の胃腸薬を世に送りヒット。そして、それまで輸入に頼っていたモルヒネを国産化した。これで一挙にトップの座へ昇る。これには、新平の影響下にある台湾総督府から原料の払い下げを受け、独占的な製造権を得たことによる。当時、民間の力はまだ弱く、企業は政府との関りを持たざるを得なかった。

さらにコカイン・キニーネの生産に着手し、「東洋の製薬王」と呼ばれた。美容品や食料品も扱うようになり、ホシの名は日本中にとどろいた。とにかく創造的で、底ぬけに明るい。故郷を愛し、社員を大事にする情の人。人を固定経費や数値に置き換える視点とは、全く異なる経営理念に貫かれていた。

販売網も強力。全国にホシチェーンといわれる三万もの特約店を持った。一町村一店舗とし、二店から希望があった場合は貧しいほうを採用したという。星は特約店を大事にした。店主には、売れとは言わず「親切第一」にと教えた。 「親には孝、子には愛、友には信、他人には同情」。親切とは、人として当然なすべきこととし、社訓にもした。息子の名も親一。ホシ特約店の子弟を教育するため、商業学校を創立。月謝や寄宿代は無料。これが今の星薬科大学となる。また、女性が働きやすいようにと、会社に託児所や幼稚園を設けた。百年たった今でも容易にできないことを、さも当然のようにやってのける。

親一はSF短編の名手「星新一」となる。新一は、父の経営の才は受け継がなかった。母方の祖母は森鷗外の妹。この血が筆の才をもたらしたように思える。低くみられていたSFの地位を引きあげた功労者。先駆者・新一の働きなくして、弟分小松左京や筒井康隆の輝きはなかった。

やがて、星製薬に暗雲がたちこめる。往々にして、急成長にはどこか危うさがつきまとう。新平の力が衰え、政敵が実権を握ると、強い逆風に見舞われる。不条理な力に翻弄され、脇の甘さもあり、破綻。一代の英傑は再起を期し踏んばったが、その死とともに会社も消えた。星新一はこれを、「人民は弱し 官吏は強し」に万感の思いを込めて書いている。

今、星一は忘れ去られている。しかし、気持ちが沈んでいる今、あふれんばかりの才覚と進取の気性で、跳ぶように、激動の時代を駆け抜けた先人がいたことを憶えておきたい。

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