市長の手控え帖 No.51 「東京駅に乾杯」

市長の手控え帖

東京駅丸の内駅舎が、創建時の姿に復元された。上京する度、仕上がっていく様にときめき、心待ちにしていた。装いも新たに3階部と南北のドームが姿を表わす。赤いレンガと白い大理石に縁どられた、左右対称・横長の駅舎は優美そのもの。明治以降では第一級の建築物。面白いことに、造られたのは渋谷・新宿よりも遅い。政府は近代国家にふさわしい体裁を整えるため、鉄道計画の核となる中央停車場の建設と、当時のターミナル新橋と上野を結ぶ市街地の整備に取りかかる。明治半ばに構想はあったものの、二度の戦争もあり着工は明治41年。6年余りの時を経て、大正3年12月に首都の顔は完成した。

設計者は辰野金吾。当時、「一丁倫敦」と呼ばれた丸の内赤レンガ街との調和に配慮。赤レンガに白い横縞、ヴィクトリア風のドームは、辰野式ルネサンスと称された。頑丈さも追求。レンガを鉄骨で補強し、地下深くに松杭1万本を埋めた。代表作日本銀行も、高い外壁が続く城塞風の造り。辰野堅固と言われるゆえんである。関東大震災にはびくともしなかった。

揺れには強かったが、空襲には耐えきれずドームと3階が焼け落ちた。戦後資材もなく、急遽2階建て8角形の屋根で再出発し60年が経過。高層ビルの案もあったが、赤レンガ駅を愛する市民の声にも押され、高度の耐震技術をほどこした壮麗な駅舎に甦った。時代を超えた辰野の設計思想に感謝したい。屋根には、石巻市雄勝の石が使われている。あの大津波でさらわれずに残った建材は、駅舎の一部として生きている。雄勝の子どもたちが描いた壁画も飾られている。この駅には、時空を超え様々な思いがこもっている。

東京駅は世界でも例をみないほど良好な位置にある。幹線の起点であり、目の前が経済の中心丸の内、商業地銀座も近い。周辺にこれほどの空間があるのは、かつての大名屋敷だったことによる。パリやロンドンは、先に市街地ができあがっており、地方からの鉄道は中心に入れなかった。やむなく郊外に分散した駅から各方面に線路が伸びている。ニューヨークの中央駅は市街地にあるがビジネスの中心ではない。都心にあり、交通・文化・経済の中心となっている駅はいくつもない。

近代化は鉄道の歴史。西欧は産業革命に歩調を合わせ、主要都市を鉄道で結ぶ。アメリカ開拓もシベリア開発も鉄道が生命だった。東京駅で遭難した首相、原敬と浜口雄幸も鉄道と縁がある。特に原敬。初めての平民出身の宰相。賊軍南部藩の悔しさを胸に秘め、政党を背景に山縣有朋率いる官僚軍政府と闘った。原は、鉄道敷設の実権を握ることが地方の支持を得る鍵とみた。どういうルートを敷き、どこに駅を造るかは関心の的。原は鉄道で勢力を拡大した。鉄道は政治でもあった。

駅中央から正面に広い道路が真すぐ伸びる。皇居に続く行幸通り。これが往時の姿に戻ったのも嬉しい。天皇陛下に信任状を捧呈する外国の新任大使は、古色豊かに馬車で皇居に向かう。東京駅と皇居の間は、美しい伝統的景観とおごそかな空気に満ちている。

東京駅に着くと、南側改札口を抜け霞ヶ関方面に向かう。改札口付近の上部がドームになっている。淡い卵色の壁に装飾された干支や鷲の彫刻が、行き交う人を見守っている。ここに立つと、よその国の駅にいるかのように錯覚する。

駅にはホテルもある。窓から眺める丸の内、皇居はどうだろうか。喧騒に包まれた地上とは違い、静寂で豊かな時間が流れているものと思う。かつて川端康成や松本清張も好んで宿泊した。都心のオアシスのような空間で、名作の構想を練ったのだろう。清張はホームの電車を眺めるうちに、代表作「点と線」のトリックを思いつき、江戸川乱歩は客室を「怪人二十面相」の舞台とした。バーでは、名人のバーテンダーが、赤レンガをイメージしたカクテル「東京駅」でもてなしてくれるとのこと。東京駅には、旅情と夢と威信が同居している。

ちょっぴり残念なのは、我らが心の駅上野が忘れられていくこと。「ふるさとの訛りなつかし停車場の 人混みの中にそを聴きにいく」。「どこかに故郷の 香りを乗せて 入る列車のなつかしさ」。上野には、東北・越後弁が飛び交う土臭さと、故郷に続いているという安堵感があった。どこかよそゆきですましたような東京駅とは好対照。今、啄木や井沢八郎の感慨を共有することは難しくなった。でも昔、最終の特急が出る時刻まで、駅近くの酒場でおだをあげたり、仕事でクタクタになり夜行列車に揺られたことは忘れられない。上野はやっぱりおいらの駅だ。

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