市長の手控え帖 No.54 「007に愛をこめて」

市長の手控え帖

正月、久し振りに映画を見た。おなじみ007。23本目の作品は、1962年の始まりから50年にあたる。当然これだけ長く続くには、それだけの理由がある。車や列車、高層ビルでのはらはらするアクション。何が出るのかわくわくする秘密兵器。ふてぶてしい悪役。魅惑的な女性。舞台となる世界の名勝地。秘密の小道具に欠かせないのが腕時計。強力な磁石や文字盤が回転しカッターになる。ときにレーザーを発し鋼板を切る。乗るのは勿論英国車。隠しボタンを押すと機関銃がうなり、助手席が車外に飛び出る。敵に追われ海に転落したとたん車輪が引っ込み、ボートに変身する。

ボンドガールも話題を呼ぶ。肌の色は様々ながら、いずれ劣らぬ美女ばかり。当初は添えもの程度だったが、段々大事な役回りを持つようになった。肝心の主役はこれまで6人。中でもボンドといえば、初代の名優ショーン・コネリー。名実ともに007の基礎を築いた。決して二枚目ではないが精気を放っていた。

主演作品のうち、人気が高いのは「ロシアより愛をこめて」。イスタンブール発のオリエント急行を舞台に、繰り広げられる死闘。あわやここまでかとボンドを追いつめる強敵も印象的。シリーズ中最高といわれる知性派美人。ヘリコプターで追い、モーターボートで逃げる。ボンドの魅力と悪役とボンドガールの、三本柱が揃った娯楽映画だ。これを彩る音楽も心地いい。世知辛い世に、ひととき夢を与えてくれた英国と映画製作陣に感謝したい。

初作は「アラビアのロレンス」と同年の公開。経費はその10分の1以下だった。しかし収益はこの大作に次ぐものとなり、以来常に黒字だが、順風満帆にみえるものの、いくたびか危機はあった。まず誰を主役にするかが問題。コネリーから今のダニエル・クレイグで6人。非情で知的で敏捷でセクシー。この要件を備えた俳優を求めることは容易ではなかった。次に時代背景。原作では敵役をソ連・東欧や個人犯罪者とした。特に冷戦下におけるスパイ戦は現実味があった。しかし、ソ連崩壊で冷戦が終わると、何を敵にすえるかで苦しむ。89年から95年までの空白はこれを物語る。ここは麻薬やテロ組織との対決に変え、乗り越えてきた。

またイギリスの香りを、どう漂わせるかに心を砕いた。上等なスーツを粋に着こなす。気障にならない、ちょっとした仕草。逆境にあってもジョークを放つ。些細な部分ではあるが、イギリス人にしか認識できない気質が、随所に現れている。アメリカのスピルバーグは007の愛好者。監督をしたいと申し出たが、英国人でないと断られたとのこと。「ドナウの水を産湯に使い、ウィーンで育った者でなければ、真のウィンナワルツを指揮できない」と同じこだわりが、この映画を支えてきた。

ボンド属する秘密情報部(MI6)は、1909年創立で国家機関としては最も古い。米CIAは、衛星やインターネットを駆使する技術力にたけているが、「泥くさい」活動はMI6にひけを取るらしい。世界を直視し、幻想を持たないこの国は、優秀で士気の高い007が、広く精緻な諜報の網を張っている。

新作はイスタンブールの市場の雑路から始まる。トルコを訪れた人は、一様に国柄の良さをほめる。イスラムの戒律がきつくない。文明の交差点が生み出す奥深さと多様さ。民度が高く経済発展が見込める。そして何より親日的。歴史的に、トルコはロシアの重圧に苦しんできた。その大国をなんと極東の小国が負かした。このニュースはトルコを狂喜させ、日本への敬意と憧れを強くした。これより10年前、ある事件が日本との縁を結んだ。トルコ軍艦が、紀伊半島串本沖で台風にあい沈没。流れ着いた軍人を、浜の人々総出で介抱し多くの命を救った。翌年、日本軍艦が故国へ送り届けた。トルコ人は、このことを教科書でも教え、忘れなかった。

時がくだり1985年のイラン・イラク戦争。イラクはイラン上空の無差別攻撃を予告した。各国は軍用機で自国民を救出。悲しいかな、日本は自衛隊の海外派遣が禁止され、民間機も危険を理由に飛ばない。この時テヘランの日本人を救ったのはトルコ航空機。期限の1時間ほど前のことだった。トルコ人は信義に厚い。

異国情緒漂うイスタンブール。街をそぞろ歩き、ボスポラス海峡に沈む夕日を眺める。憧れのオリエント急行でバルカン半島からパリへ。車窓から国々の興亡へ思いをはせ、移りゆく景色を楽しむ。食堂車で舌平目にシャンパン。優雅に注いでくれるのは「ロシアより愛を込めて」のあの金髪美人・・・。やはり夢か。

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