市長の手控え帖 No.58 「国民に愛された人」

市長の手控え帖

5月5日、長嶋茂雄と松井秀喜に国民栄誉賞が授与された。感激で長嶋の目は潤み頬は紅潮していた。「皆さん、ありがとうございます」の言葉に涙がこぼれた。そのひと月前、しらかわ大使になって頂いている野﨑洋光さんから、長嶋の晴れの受賞と喜寿を祝う内輪の会に招待された。野﨑さんは、長嶋がアテネオリンピック日本代表監督の折に料理長を務められた。

湯川れい子、やくみつる、著名なアナウンサーら多彩な顔ぶれ。被災地を支援しようとのご配慮により、飯舘村長・川内村長・古殿町長と私が席につらなった。誰もが大ファンで、祝賀ムードにあふれたとても気持ちのいい宴だった。ご本人は、ぴたっときまったスーツ姿で終始にこやかな表情。憧れのスターと写真に収まり感激ひとしおだった。ある方が祝辞で、もっと早く栄に浴してもよかった、これで胸のつかえがとれたと述べていた。

金字塔をたてた王貞治や衣笠祥雄に与えられたのはうなずける。だが、国民の多くがミスタープロ野球と称される人が推挙されないことに違和感を覚えていた。王も当然なら長嶋も当然というのが素直な感情。何をもって栄誉とするかは難しい。勿論、判断の基準は記録。しかし、ときにこれを凌ぐ強烈な印象で長く記憶に残る人もいる。長嶋は王の記録には及ばないものの、その輝きは他を圧していた。

昭和33年、当時プロより人気のあった東京六大学のスターとして巨人へ。この年、ホームランと打点王に輝く。打率はわずかの差で2位と、三冠に手が届く活躍。球界のエース金田正一との開幕戦で4連続三振。金田は「スイングの速さはたいしたもの。いずれ俺を打つだろう」と言ったとか。鮮烈なのは翌年の天覧試合。巨人阪神同点で迎えた九回裏。好敵手村山実の5球目を叩きレフトスタンドへ。劇的なサヨナラホームラン。陛下も身をのり出しポール際を見ておられた。ここからプロ野球の隆盛は始まったといわれる。

オールスターや日本シリーズに滅法強く、燃える男といわれた。一挙手一投足が絵になった。ヘルメットがベンチ前まで飛んでいく豪快な空振りでわかせる。普通ならショートの球を、横取りするようにカットし一塁へ。スローイングの後、右手をひらひらさせる仕草。なんでもない球が股をくぐりぬけていく見事なエラー。ホームランで意気揚々と一周したが、一塁を踏まずアウト。一塁ランナーで、ライトへの球がヒットになると思い全力疾走。捕球され2塁へ戻る選手を追い越しアウト。何ともおかしい。

相手投手は「計算できない。難しい球でも変なスタイルで打ってしまう」と評する。長嶋話法も面白い。「ひとつの・いわゆる・う~ん」を多用し、主語述語がよく分からない。「失敗は成功のマザー」と英語が奇妙にまじりあう。人の名前を間違ったり、諺を誤って使ったり。とにかく愛嬌があり笑いを醸し出す。長嶋は、プロは陰の苦労や苦悩を人前で見せるべきでないという。並はずれた努力を重ねプロ意識に徹し、サービス精神にあふれた千両役者だった。

長嶋監督が誕生する。だが状況は厳しい。勝つことを義務付けられるプレッシャー。しかも自分が去り、王も盛りを過ぎる。ファンは、型にはまった川上野球と違うものを望む。長丁場で勝つには、確率を重んじ、セオリーに忠実なのが近道であることは心得ている。熟慮の末、エキサイティングを重視するスタイルをとる。結果は、日本一という目標からすれば不本意なものとなる。川上派の面々からは批判され、マスコミも同調する。球団も抗しきれずまさかの解任。屈辱と忍従の日々が続いた。でも球界の至宝を野に放っておける筈はない。ラブコールの合唱の中再び指揮をとる。ドラマ性と確実性がうまく折り合い、野球人気を盛り上げた。さらに松井という逸材を厳しく指導し、またわが子のように慈しみ大スターに育てあげた。

名選手必ずしも名監督ならず。長嶋を名監督と評価する声は少ない。勝つことを至上とし、非情に徹した指揮をすることが一流ならば、そうかもしれない。しかし、感動を与えるのがプロとの信念で、わくわく面白い野球を追い求めた長嶋も、まぎれもない名監督だと思う。

球界きっての皮肉屋・辛口の野村克也は、「長嶋は向日葵で俺は月見草」という。実績、数字あれこれではない。長嶋が野球の枠を越えた特別の存在であることを認める。貧しくも明日へ目を輝かせていた昭和のあの頃。夢と希望のシンボルが長嶋茂雄だった。天が遣わしてくれた「まれ人」と、時代をともにできた幸せを感じている。

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