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市長の手控え帖 No.76「明日への瞳」

市長の手控え帖

いつの時代も「今どきの若い者は」の次には、「困ったものだ」がつく。私らも「全共闘世代は理屈をこねまわす」と言われたものだ。でも新しい扉を開けるのは若い力と感性。この数年、若者の意識は変わってきたと思う。格差、高齢化、グローバルの大波。若者を取り巻く環境は険しいが、大昭和祭りや、ゆるキャラ祭りへ参加する若者は素直で明るい。夏休み、白河出身の大学生らが「シラカワ・ウィーク」に取り組んでいる。小中高の生徒との学習を通した交流やまちなか探検。雇用・教育・地方などを考えるシンポジウムを催す。彼らは誠実に社会と向きあっている。

年末、都内の高校で講演する機会があった。きっかけは本市出身の生徒。白河の災害状況、どう対応したのか、今後どんなまちにしたいのかを話して欲しいという。澄んだ目をしていた。郁文館という名の高校は、東大赤門から遠くない文京区千駄木にある。このあたりは、夏目漱石や森鴎外、樋口一葉、坪内逍遥らが住んだ。夕暮れどきには、和服姿にステッキで散歩する文士に出逢えるような気がする。

かつて学校の前には、漱石の居宅があり、そこで「我輩は猫である」を書いた。小説には「落雲館」中として登場する。しばしば狭い校庭からボールが飛び込み、気難しい漱石先生は、少々おかんむりだったようだ。この家には、以前鴎外も住んでいたというから面白い。郁文とは、文化文明が盛んで香り高い様子をいい「郁々として文なる哉」との論語に由来する。明治の精神がにじみ出ており、130年の歴史を持つ学校にふさわしい名だ。

講堂には130人ほどの生徒。中高一貫校で最前列に中学生もいる。皆姿勢がいい。壇にあがると、学ぼうとする心が醸し出す、ピンとした空気を感じた。白河の歴史や位置から入り、地すべり・小峰城・住宅の被害、整然と給水所に並ぶ人々。復旧工事、石垣の修復、除染作業をスライドで説明した。津波や原発地のほかにも、これほどの災害があったのかという顔。ぐっと生徒の目が近づいてきた。

日本は災害列島。地震台風を宿命と受け止めてきた。その都度、災いを福に転じようと立ちあがってきた。大事なことは、災害にどう備えるか、どう素早く立ち直るか。そして何を教訓とするか。特に原発事故では文明の苦しみを背負った。ここから何を学ぶかは、人類の将来をも左右する大問題であり、風化させてはならないと話した。ある者は大きくうなずき、ある者は貪るようにペンを走らす。

続いて国や地方の課題へ転じた。膨大な借金、急速な少子化、縮む地方、厳しい外交。私達の前には、身がすくむほどの壁がそびえ立つ。ひと昔前、日本は世界の奇跡と賞賛された。国際環境、働き手の増加、技術革新と発展の条件が揃っていた。だが成功の影に失敗の種が潜む。国の内も外も変わり、新たな視点で政策を転換すべきなのは分かっているが、そうするには厄介な利害調整を伴い、負担も大きくなる。人も制度もそう簡単には変われない。突破の鍵は何か。それは「人材」。

ドイツの学者の言葉を引用した。「政治とは、情熱と判断力を駆使しながら、堅い板に力を込めて、じわじわ穴をくりぬくようなもの」。それには、率先して困難に立ち向かう意思と、力を持つ人が欠かせない。何事にもあてはまるが、地方の人口減少対策は特にそうだ。国が地方創生に腰をあげた。県や市は、今年、数値目標の入った政策プランをつくる。自らの頭と足で未来を切り拓く時期がきた。地域の知恵比べ、腕比べが始まったともいえる。

幸い今は、インターネット等の普及で、地方にいても情報格差はない。国内はもとより、世界とつながっている。企業も農家もNPOも、地域に足をつけ、より広い活動や交流ができる。世界的視野から地域を見つめ、足元にある産業や文化的素材を磨き、未来へつなぐ。今こういう「ローカリスト」が求められている。また、先が見えないからこそ、健全な身体と、文化芸術や歴史に親しむ幅の広い人間が必要とも語った。輝く瞳に晴れ晴れとした。

その昔、若者は学生運動で社会に異議を唱えた。今は静かに、しかし深く心に期し、荒波を受け止めようとしている。静かにいく者は遠くまでいく。きっと彼らは、創意と行動で危機を乗り越えるだろう。ほどなくその生徒から手紙が届いた。自分も何らかの形で、好きな白河のために貢献したいと。確かな未来がここにある。

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