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市長の手控え帖 No.92「悪役を演じた男」

市長の手控え帖2

今月8日、27年振りに大相撲白河場所が開催される。北の湖、千代の富士が横綱の頃、よく石川町で夏巡業場所が行われた。本場所と違い、浮き浮きしたお祭り気分。憧れの力士に触ったり、赤ちゃんを抱っこしてもらったり。笑顔と歓声が広がっていた。
さて北の湖。昨年惜しくも、相撲協会理事長のまま死去した。現役時代“憎らしいほど強い”といわれた。最年少で横綱になり数々の記録をつくる。優勝回数や勝星数で上回る力士はいたが、強さという点では抜きん出ていた。
昇り龍のように駆け登った頃の第一人者は輪島。両者の激闘は相撲史に残る。左四つ、右まわしで寄りたてる北の湖。右半身、左から下手投げで崩す輪島。初めは強引な攻めで苦杯をなめる。“負けて覚える相撲かな”後半は持久戦に持ち込み分がよくなる。天才と呼ばれた輪島が、北の湖こそ天才と、評した。
無事是れ名馬。初土俵から15年間休場がなく、横綱在位は10年を超えた。看板力士が常に土俵の中心にいる。これほど頼りになる存在はなかった。
強さが嫌われた。いかつい顔に太鼓腹。肩をいからせ勝ち名乗りを受ける。鋭い立合いにみなぎるパワー。ちぎるように投げ、一気の出足で土俵の下に押し飛ばす。悪役の要素が揃っている。負けた相手に手を貸さないと批判された。「手を貸されたら屈辱でしょう」。相手の名誉を重んじたうえでの振る舞いだった。
悪役がいるからヒーローが輝く。貴ノ花は、細い体に心細げな眼差し。当代きっての人気者。二人は優勝決定戦を2回やっている。館内は貴ノ花一色。テレビの視聴率は50%を超えた。"期待”にこたえるように負けた。大歓声の中、座布団がとぶ。北の湖は一礼し、堂々と花道を去っていく。見事な敗者だった。
北の湖は悪役を演じた。むしろこれを誉れとしていた。だが、その実像は悪役には程遠い。角界の誰もが、優しく気配りの人という。巡業中、疲れていても頼まれると胸を出し続けた。土俵を離れると、兄弟子の増位山には席を譲った。宴席では、率先して"鍋奉行”をやり、水割りをつくった。
一方、繊細なところもあった。テンポよく仕切り、立合いができると無敵。だが、リズムが狂うとおかしくなる。朝潮という力士には、何故か負けた。スローな動作にいらいら。とぼけたような顔を見ているうち、気が抜けるという。 
当時の理事長は、名人栃錦の春日野。北の湖は、土俵に厳しく、穏やかな人柄を尊敬していた。春日野も北の湖に、指導者の資質を見い出していた。現役の名声だけでトップは務まらない。人望、指導力に加え、実務能力も必要。35才で役員待遇、49才で相撲界を背負う。
インターネットでの勝敗の速報、全取組の中継など、時代の要請にこたえた。しかし、閉鎖的な社会に重い病が潜む。不祥事が相次ぐ。新弟子の暴行死に大麻事件。潔く辞任する。さらに野球賭博から八百長事件に拡大。大地震のあった3月場所は中止となる。国技の一大危機。ここで北の湖が再登場する。
まずは相撲人気の回復に全力をあげる。白鵬の奮闘や、遠藤の活躍もあり客足が戻ってきた。次は協会の公益法人化の大仕事。公益性が認められれば信頼は高まる。税も優遇される。当然ハードルは高い。売買され、とかくの風評のあった年寄株を協会管理とするなど、粘り強く交渉した。ここでも、因習やしがらみを取り除こうと、悪役を一手に引き受けた。
北の湖は、力士としても管理者としても非凡だった。吹きすさぶ寒風の中、身を避けず愚直に進んだ。彼こそ、谷風・雷電から双葉山・大鵬へと続く、大いなる品格と権威の系譜に入る偉人だ。私はファンの一人だった。 

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