市長の手控え帖 No.104 「響きあう心」

市長の手控え帖2

 

 

 肌着やインナーで有名な、グンゼという繊維会社がある。創業時の社名は「郡是製絲株式会社」。郡是とは、面白い名前だ。明治の半ば過ぎ、小学校教師の波多野鶴吉は、ある人の講演を聞き、いたく感銘した。京都の西北に位置する綾部は、養蚕の盛んな地域。これをいかし、蚕糸業をおこそうと決意する。

 その人は前田正名。産業発展を担う農商務省の高官。薩摩の人で殖産興業の父といわれた。前田は「今日の急務は、国是・県是・郡是を定むるにあり」と説いた。是とは進むべき道をいう。

 国は国としての、郡は郡としての振興方針を明確にする。特に地域においては、茶・生糸・織物など、そこに根ざした産物の重要性を訴えた。品質を上げ、輸出を促し、銀行設立による資金調達など、地方からの産業振興策を提案した。

 しかし、富国強兵・海外技術の重視等、中央集権的な手法で、国づくりを進める政府とはあわなかった。上層部とぶつかり野に下る。前田は、地域資源の活用・これを踏まえた推進計画・協働の精神の三原則による下からの振興を説き、全国をかけまわった。

 焼け跡からの国づくりが始まる。「国土の均衡ある発展」を国是とした。それは、より強く国が主導するものだった。順調に伸びる税を背景に、地方の公共事業をおこす。補助金や交付税で仕送りする。農産物の価格を保証する。企業の地方移転を促す。この効果は大きかった。世界でも類のない、厚い中間層が生まれ、社会の安定に大きく貢献した。

 一転して環境が変わった。成長の鈍化、国の財政悪化、公共事業の減、企業の海外移転、農業にも競争の波。地方を支えてきた基盤が崩れてきた。次第に上からの振興策は、輝きを失ってきた。

 そこに人口減の衝撃が襲う。国は「地方創生」という名の振興策を打ち出す。各自治体も創生計画を作成。だがこれも、事業モデルを国が決め、交付金で誘導する、従来と同じスタイル。自治体のプランも、変わりばえしない金太郎飴。この間に、依然として人は東京に流れ、地方はゆるやかに力を失っていく。今、国土政策は壁にあたっている。

 ならば地方が主役になればいい。ところが、長い間の習性で、国の指示を待つ体質が身についてしまった。自分の頭で考えるというのは苦しい。むしろ何かに従っている方が楽だ。行き過ぎた国への依存は、地方の創意工夫の力を弱めた。

 前田イズムは、地域づくりの基本を示している。足もとにある、歴史・文化・自然・産業の資源を真ん中におく。これを磨き、最大限活用する。そのうえで不足するものを外から補う。これまでの外発的手法から内発的発展に、ベクトルを転換することが求められている。

 市町村の安定なくして国の安定はない。国と地方は上下ではなく、支え合うパートナーであるべきという。前田は、真剣に国を考え、地方への優しいまなざしを持つ信念の人だった。

 波多野は、郷土愛にあふれ、人間愛にあふれ、企業家精神に満ちていた。養蚕を産業化し、雇用をつくり、域内に富が回るようにした。その精神は社是に表れている。「人間尊重と優良品の生産を基礎として、会社をめぐるすべての関係者との共存共栄をはかる」。

 当時の製糸工場は、農家の子女が主力。女工哀史といわれ、劣悪な環境で働かされていた。同社は女工ではなく、工女と呼び、女学校まで設け教育に力をいれた。また広く出資を募り、この時代には極めて稀な、株式会社としてスタートした。会社は、事業を通して社会に貢献する公器であることを知っていた。志の高い行政官と企業家の精神は見事に共鳴した。

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