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市長の手控え帖 No.128「人間の進化と共感力」

市長の手控え帳

 

吉野彰さんが、ノーベル化学賞に輝いた。リチウムイオン電池を開発した功績による。明朗で笑顔のいい人。京都大学の出身。国家を背負う東大に対し、京大は自由闊達な雰囲気がある。
役に立つかどうかは問わない。好きなことをやる。ヘンなことをやる人がいい。「頭がええな」は、馬鹿にされていること。「おもろいな」は、褒め言葉。現実の科学技術や経済には貢献しそうもない"おもろい"研究をしている人がいる。
京大総長の山極寿一さん。ゴリラの研究家だ。アフリカの密林でゴリラと一緒に寝起きし、ゴリラの集団形成、リーダー選び、意思の交わし方等を、40年以上にわたり実地調査してきた。その視点から、人類の進化の歴史を探り、社会が直面している課題を見つめ、人間の未来に警鐘を鳴らしている。
AI(人工知能)が劇的に社会を変えようとしている。利便性を期待する一方、言い知れぬ不安も抱えている。それを軽減するには、過酷な環境を生き抜いてきた人類の体に刻まれた記憶を、読み解く必要があると述べている。
人類は700万年前に誕生。豊かな熱帯雨林の樹上生活から、サバンナへ進出したのは450万年前。狩猟道具を用いたのが50万年前。言葉を得たのが7万年前。人類の歴史は、肉食獣から集団で身を守る時間だった。
進化の過程で得た最も大きな力は、相手の気持ちに立って物事を進める共感力。相手と対面し、見つめ合う。そこから互いの思いをくみとり、信頼ができ協力しあう。人間の目が横長で、白目があるのは、視線のわずかな動きをとらえ、相手の気持ちをより敏感につかむため。視覚・聴覚等の五感も信頼を高めるのに役立った。共感力と豊かな感性、鋭い直感力により人はつながってきた。
集団の人数が増えるにつれ、社会的行動が複雑化し、脳も大きくなる。現代人と同じ大きさになったのは60万年前。150人程度の集団。面白いことに、今も一般的な狩猟採集民の村は同規模だという。顔を覚え、信頼を保てる数だ。
人類は言葉で世界を広げてきた。言葉という道具を用いることで、農耕・工業・情報通信と大きな発展を遂げた。その帰結がAI。情報を介して脳だけでつながる社会。だが、圧倒的に長い間、言葉を持たず、共感力や身体によるコミュニケーションで生存してきた人間は、速すぎる変化に対応できないでいる。
人間は言葉と技術で、富と快適な環境を手にした。だが、地域社会とのつながりは、格段に薄れた。今では、ソーシャルメディアで対面不要な仮想コミュニティを生み出した。各人の好みや時間に応じて、自由に情報空間を出入りし「いいね!」でつながっている。
人間の歴史にはない不思議な集団。それは、現実世界でコミュニティから切り離されている不安の裏返しのように思える。「自分へのご褒美に高級レストランへ…」という若者が少なくないという。そもそも人間は、他人から褒められることで安心するもの。どこかで人間関係の基本が崩れているのではないか。
現代人は土地や人から離れ、孤独になっている。自ら開発した科学技術を制御できないのでは、という不安の中にいる。それを和らげるには、共感や信頼が欠かせない。そのためには、井戸端会議や床屋談義、同級会のような目的を持たず安らげる時間。赤ちゃんに対する母のような、見返りを求めない時間が必要。
人類は仲間を思いやり、慈しみ、分かち合って、生き残ってきた。共感力、感性、直感力など身体に根差すものは、AIには作れない。ひたすら効率や結果を追求する脳中心の社会に、人間が育んできた「こころ」や「情」を組み込むことが求められる。今こそ人間性の復権だ。

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