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市長の手控え帖 No.145「官僚たちに春を」

市長の手控え帳

 

難関の試験を突破し、国の重要政策を企画立案する官僚。花形職種で30年前頃の倍率は30倍を超えていた。だが最近は志望者がぐっと減り10倍程度になった。東大、京大のトップクラスは官僚に魅力を感じていない。離職者も年々増加し、外資系やIT企業に転じている。
理由の一つが長時間労働。霞が関の残業時間は月平均100時間。民間の約7倍、精神疾患の休業者は3倍。最大要因が国会対応。所属の委員会で法案が審議される。議員の質問通告の期限は決められているが、殆ど守られない。届くのは前日の夕方頃。至急答弁案に取りかかる。修正を重ね、仕上がるのは深夜。印刷し、自転車で国会に届けるのは明け方。
朝6時。大臣への答弁説明のため幹部が出勤。噛んで含めるように説明。本番で立往生しないよう想定問答も用意する。涙ぐましい努力。それでも堂々と間違う大臣…。この作業が審議終了まで延々と続く。現場を歩き、企業家や自治体と意見交換し、政策を練るべき優秀な頭脳が疲弊している。"国会待機"は人材という最大の行政資源を浪費させている。
かつて「官から民へ」「規制緩和」の風が吹き荒れた。「小さな政府」を実現する最大の障壁は官僚。権限の縮小と公務員の削減を狙った。結果としては失敗だった。逆に少子高齢化・防災・国土計画・情報化等、国の責務は大きくなっている。だが公務員数は減らされたまま。
以前は2年程度かけて制度設計をした。今は社会の変化も速く政治的な思惑もあり、即座の法整備や改正が求められる。人的にも時間的にも深く考える余裕がない。議員と官僚の関係も歪んでいる。官僚は法案の理解を得ようと足繁く"ご説明"に伺う。エリートの懇願に満足気な議員。まるで官僚は議員の下僕のようだ。勿論、国会議員は国民の代表。国の方向を決める重大な責任がある。
一方官僚は、政治家の判断に欠かせない政策案を提供する。そこに上下はなく、国家運営のために役割分担し、協働する関係があるだけ。だが官僚は唯々諾々と従う。何か失策があるとおどおどし、目を伏せ釈明に努める。国家の礎としての矜持も品格も感じられない。
これを目にした若者は官僚になろうと思うだろうか?昔、旧通産省に剛毅な事務次官がいた。「俺たちは国家に雇われている。大臣に雇われているのではない」として、大臣の方針を拒否した。城山三郎の『官僚たちの夏』を読んで頂きたい。
官僚を萎縮させているのが"政治主導"や"官邸主導"。決められる政治と称して、矢継ぎ早に国民の目を引きそうな政策を打ち出す。本来官僚は、自分の企画が政策化されることに喜びを感じ、士気を高めるもの。それが自らの大臣でなく、突然に官邸から命令される。しかも粗雑な案を短期間に対処せよと。
官邸の主役は、首相や官房長官お気に入りのごく少数の官僚。彼らは、"官邸が…"を連発し「なんでもカンテイ団」と揶揄される。背景には内閣人事局を設置し、幹部職員の人事権を握ったことにある。官邸の意向を探ることに腐心する忖度文化を作り上げ、器の小さな役人に成り下がってしまった。過度な官邸主導は役人の意欲を大きく低下させた。
そもそも官僚組織なしに国家は成立しない。ともすれば政治家は民意や世論に流されやすい。だが官僚は理性的で長期的視野に立ち国家運営ができる。高い志と情熱を持つ官僚の意欲をそぐことは、国の弱体化を招くのではないか。
個々の官僚の不祥事は批判されて当然。だが官僚制そのものを否定するのは、角を矯めて牛を殺すようなもの。安易に官僚悪玉論に乗ってはいけない。政治家は官僚の士気を高め、最終の責任を負う度量を持って欲しい。出でよ!「経世の任」にあたらんとする若者よ。

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