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市長の手控え帖 No.172「関東大震災に学ぶ」

市長の手控え帳

上京のたび東京の変貌に驚く。湾岸地にはタワーマンションが林立し、丸の内や日本橋界隈には超高層ビルが建つ。だが不安も拭えない。大地震に襲われたら?耐震性を備えたビルの倒壊はないとしても、液状化は避けられない。電気や水が止まる。エレベーターに閉じ込められる。水や食料を抱えて階段を昇る…。

今年は関東大震災から百年。カラー映像を見ると愕然とする。丸の内の路面の深い亀裂。本邦一の高さを誇った12階建ての浅草凌雲閣は、8階でポッキリ折れている。火の手が迫り、大八車に家具を積み逃げる。死者10万5千人。その9割は火災が原因。昼時に発生し、炊事の火が強風に煽られて燃え広がった。

木造住宅の密集する下町が最大の被災地となった。広い旧陸軍省被服本廠跡に3万8千人が逃げ込む。安心も束の間、竜巻のような火災旋風で地獄絵図となった。復興は敏腕政治家の後藤新平が担った。東京市長の頃まとめていた復興構想を基に、区画整理を行い道路や橋梁・公園を整備した。事業が迅速に進んだ背景にはこの「事前復興」計画があった。

 

日本は災害列島。台風の通り道で火山も多い。4つの陸と海のプレートが重なり合う世界有数の地震地帯。これまでも、大地震が何度も繰り返されてきた。危惧されるのは首都直下型地震。30年以内に70%の確率で発生するとのこと。これが特別なのは国の中枢を直撃する点だ。

そもそも、巨大地震のリスクが高い地域に、立法・行政・司法の中枢機能や大企業が集積していること自体、危機管理の基本からすれば異常である。コロナ禍でも東京一極集中の是正が叫ばれた。だが"喉元過ぎれば熱さ忘れる"。収束するにつれその声は小さくなった。

かつて、首都機能移転の議論が活発に行われた。1992年、国会等移転法が制定。東京から60~300キロメートル圏が前提。災害からの安全性や土地の円滑な取得が重視された。都市機能が麻痺した阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件もあり、さらに議論は盛り上がった。多くの候補地から「栃木・福島地域(那須・白河)」と「岐阜・愛知地域」に絞られた。

だが石原都知事の反対、不景気の時に12兆円を投ずることへの疑問。そして小泉首相の凍結宣言によりお蔵入りとなった。将来の危機に備え、大胆な事前復興を描く平成の"後藤新平"はいなかった。だが歳月は人を待たない。迫りくる災害にどう対処するか、覚悟が問われている。

 

関東大震災には負の歴史があった。非常事態では、確証のない噂話や、根拠のない扇動的な宣伝が飛び交う。これを信じデマや誤情報を拡散させる。"朝鮮人が井戸に毒をまいた"との流言が広がる。殺気立った各町内の自警団は朝鮮人を虐殺した。軍や警察の一部も加担した。被害者は死者全体の1%以上に上る。

日頃、彼らを虐げてきたことへの潜在的な恐怖感が、流言を生み殺戮につながった。狂気の刃は日本人にも向かった。千葉県福田村(野田市)では、香川県の行商人一行を自警団が取り囲む。行商団の話す讃岐弁が理解できず「朝鮮人ではないか」と凶器を振るう。幼児や妊婦を含む9人が殺された。普段は人のいいおじさんたちが、躊躇なく命を奪う。

今はSNSが主流の時代。デマも一気に拡散する。東日本大震災やコロナ禍でも流言や中傷が飛び交った。また人工知能で偽画像も簡単に作れる。今後はさらに巧妙で悪質なデマが流れるだろう。そこには真実の皮をかぶった大きな嘘や、社会を攪乱させる悪意が潜んでいる。

まずは一旦立ち止まり、冷静に真偽を判断することが重要だ。それには、錯綜する情報の中からコトの本質を見抜く力が求められる。堅固なビルに広い街路、容易に入手できる情報…。だが文明の進歩は、防災の強化につながるのだろうか。

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