市政情報

市長の手控え帖 No.42 「長谷川平蔵の涙」

市長の手控え帖


江戸を火付けや盗賊から守る、「火付盗賊改方」長官の長谷川平蔵。池波正太郎の原作やテレビでおなじみです。この「鬼の平蔵」を演じたら、当代右に出る者がいない役者が中村吉右衛門。惚れ惚れするほどいい男振りです。吉右衛門は、昨年人間国宝に認定された。現代では坂田藤十郎、尾上菊之助に次いで三人目。父松本白鸚と親子での偉業でもあります。一門の「播磨屋」は、心の陰影をきめ細かく表現することに重きを置いているとのこと。歌舞伎の中には、大立回り・大見得、宙返りなど荒事や外連の技で客を呼ぶ一門もある。吉右衛門は、古典を守りその中に深い精神的なものを反映し、芸術性を高めたいと言う。

長いセリフで有名な真山青果作「元禄忠臣蔵」を観ました。おなじみの松の廊下や討ち入りの場面はなく、淡々としかし陰影に富んだ、心の交流・葛藤・哀れみを描く。本物の芸が試される舞台。吉右衛門は、ひそかに赤穂浪士を応援する甲府宰相綱豊と、大石内蔵助の二役を演ずる。大柄な姿がより映える立居振舞。心の奥底から湧き出る言葉と真に迫る表情で、義士の悲しみ・喜び・安堵を表わす。誰もが分かっている筋立てにも拘わらず、知らず知らず引き込まれ、いつしか涙があふれる。まさしく千両役者。吉右衛門の芸の深さに拍手です。

急に、映画「心中天網島」を思い出した。近松門左衛門の傑作を若き吉右衛門と岩下志麻が演じた。全編に歌舞伎と浄瑠璃の雰囲気が漂う。死出の道行きを決意する、細面でどこか儚げな商家の旦那ときりっとした遊女の役柄が印象的でした。

吉右衛門の父も演じた長谷川平蔵。強い使命感と果断さで凶悪犯を捕縛し、江戸の治安を守る。彼を慕う同心たちへの心配りも欠かさない。また非道に手を染める人間の悲しみや複雑さに思いを寄せ、貧困や社会の矛盾が犯罪を生むことも承知している。「良いことをしながら悪いことをするのが人というものよ」と言う、平蔵の目に光る涙は奥深い。若い頃、無頼の日を送ったこともある。だからこそ人情の機微をわきまえ、一筋縄ではいかないこの世の難しさを誰よりも分かっていたのだと思う。平蔵は奥行きのある味わい深い人物。吉右衛門は、播磨屋の重厚で陰影のある芸風でこれを見事に演じています。

よく人足寄場が登場します。刑を終えた者や無宿人に、神仏の教えや生活の基本を指導したり、大工や建具などの職業訓練を施すところ。平蔵は、職のないことが心の荒廃を呼び、犯罪を招くことの恐さを肌で知っていた。それ故に、彼らを一人前の人間として世に送り出すことが、失業対策や社会の安定につながると考え、時の老中松平定信に、人足寄場の必要性を訴えた。大災害や飢饉が、政変や社会の混乱を引き起こすことを熟知していた定信は、これを取り入れ、石川島に建設した。為政者と治安維持官のお手柄です。もっとも定信は、平蔵の功績は認めたものの、剛愎で闊達な人柄を良しとしなかったとのこと。育ちの違いか、政策の根本をなす理念のずれか。古今東西、肌が合う合わないは、理屈では説明しようのない事柄であることは確かです。

吉右衛門は30数年前の「元禄忠臣蔵」で、幕開け三日前に父から代役をやれと言われたそうです。父の稽古は見ていたものの、自分が演ずる心構えはできていないから、さあ大変。もしできなかったら、この先はないと意を決し、内蔵助の膨大なセリフを三日徹夜で覚えたとのこと。これ以降、いつ代役をまかされてもいいように、普段の稽古や芝居をきっちり見て、体に刻むと言います。誠に、人間国宝になるほどの人の構えは見上げたものです。

新春に全国を沸かす箱根駅伝でも、急なエントリー交代がある。いつでも走れるよう練習を積んできたとはいえ、いきなり指名された選手の重圧と緊張はいかばかりでしょう。でも、いずれのランナーも立派に走り責任を果たしている。恐れいります。白河出身の東洋大の2人は、来年、栄光の東海道を走ってくれるものと思います。

震災から10か月余。復旧に全力をあげ、この先の発展を見据えているものの、放射能が邪魔している。国の対応の遅さ、鈍感さには口にするのも空しいほど。特に、原発被害者の損害賠償地域から白河・会津が外されたことには唖然とし、怒り心頭です。中通りを、県を分断する理由はない。これから県をあげて、復興の松明をかざそうとしているときに何事でしょうか。ここに至れば自分たちの力で行動していくしかないと思います。でも内心、長谷川平蔵のような「花も実もある」為政者が出てきて欲しいと思うこともあります。

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