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市長の手控え帖 No.62「役人の心得」

市長の手控え帖

霞ヶ関のキャリア官僚は一目置かれる存在だ。天下の秀才が情熱を持ち日々励む姿に、この集団がしっかりしていれば国は大丈夫との信頼がある。しかしこれも怪しくなってきた。経済産業省の官僚がブログに信じられない書き込みをしていた。「被災地はもともと滅んでいた」「復興は不要だ」。数か月前には復興庁の役人が市民団体を「左翼のクソども」、ある町の議会を「笑っちゃうほどレベルの低い田舎議会」と罵倒した。品位のかけらもない低劣さに唖然とした。

二本松霞ケ城の通用門前に、ある文字が自然石に刻まれている。「爾の俸 爾の禄は 民の膏 民の脂なり 下民は虐げ易きも 上天は欺き難し」お前が頂く給料は、人々の汗と脂の結晶だ。それを忘れて人々を虐げるなら天罰が下るぞ。二本松戒石銘といわれる。名君の誉れ高い5代藩主丹羽高寛が、藩士の戒めとして刻ませた。20年ほど前、当時の市長がその拓本を全国の自治体に送り話題となった。私も昔頂き市長室に掲げてある。

警察庁長官を経た後、政界に転じた後藤田正晴という人がいた。中曽根内閣の官房長官を務めた。その存在は際立ち、ときに見解を異にする総理を説き伏せた。戦前の誤ちを繰り返すまいと、国の隅々まで目を光らした国士だった。特に、官僚機構を掌握する力は群を抜いていた。後藤田は終生この教えを胸に刻み、後輩の不祥事のたびに、その大事さを説いた。

日本の行政の精巧なシステムは世界に誇れる社会的資産だといわれる。これを担う公務員も、優秀で清潔。百年河清を待つに等しい、中国の腐敗と比べたら明白だ。私の知る霞ヶ関の役人は、よく働き使命感に満ちている。徹底して鍛えられ、深夜に及ぶ仕事もいとわない。経済面で恵まれているとはいえない。それに、近頃は横柄の文字が消えたと思えるほど、低姿勢。

県には毎年、何人か国から出向してくる。若くして課長や部長の椅子につく。当然苦労はある筈だが、これを軽々と乗り越える。仕事の手際良さ。知事への説明のうまさ。議会への根回しの巧みさ。市町村や民間との人脈づくりのうまさ。楽しそうに振る舞う姿に、学ぶことは多かった。彼らにとっても地方の経験は貴重だ。直接県民の声を聴き、県や市町村の生の姿をみることができる。これが、国で法律をつくり、政策をたてるときに役立つ。この人たちは、国で重要な地位につき、福島のことを案じ様々な支援をしてくれている。

暴言を吐いた人はよほどのうっ屈を抱えていたのか、それとも病んでいたのか。ただ同情もある。あまりに忙しい。法律・政策や予算に命を削る。民間との利害調整もある。さらに国会が大変。政策への理解を求め何回も“進講”する。質問を受けると、議員と入念な打ち合わせを行い、大臣や局長の答弁をつくる。大災害ともなれば極めて迅速な対応を促される。加えて通常の業務が待つ。こうした負担が心をむしばんでいるのかもしれない。創造的な仕事にはゆとりがいる。国家的なものであれば、深く掘り下げて考える時間はなおさら必要。もっと地方に任せるとか、国会の縛りを緩和するなどの改善策を考えるべきだ。

役人には心すべきことがある。役所は競争相手がいない。利益をあげ雇用を守る切迫感がなく、売上等の目標値も設定しにくい。ゆえに、いいサービス・施策を提供する意欲に欠ける。また公費を使う以上、失敗は許されないとする意識が強い。勢い、手堅く慎重になる。これが高じて「しくじって評価を落とすよりやらないほうがいい」となる。一方、職員を不当な圧力から守る身分保障が、「やらなくても職を失うことはない」と逆に働いてしまう。いつしか「休まず 遅れず 働かず」の文化ができあがった。

かつて、花王石鹸の常盤文克会長に、県産業センター顧問への就任をお願いした。浪江町の出身で名経営者の評価が高かった。会長はこう話された。私達は何百・何千という製品化を試み、やっとひとつのヒットにいきつく。失敗の山の上に成功がある。そうして会社を存続させる。しかし行政はやろうとしない。だから問題のありかが分らず、後手に回ると。耳が痛かったが核心をついていた。

常々、職員に「行政に評論家はいらない。できない理由を捜すのではなく、実現するためにどうするかを考える。仕事は追いかけるもの」と話している。今、日本は重く緊急な課題に直面している。行政に携わる者、特に住民に最も身近な市町村は、我々がやらねば誰がやるとの気概と、進取の精神が求められている。「沈香も焚かず屁もひらず」はもう昔のこと。

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