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市長の手控え帖 No.85「おもしろく働く」

市長の手控え帖

あけましておめでとうございます。皆様には、希望に満ちた新年をお迎えのことと思います。四海波高し。主要国がイスラム過激派への共同戦線を組んだものの、ロシアとトルコに暗雲が漂う。第一次大戦発端のように、思わぬ方向に行かなければと懸念する。EUもギリシャ問題に加え、難民の受け入れで大揺れ。成長が鈍る中国は、人民の不満をそらすためか、ナショナリズムに訴え周囲に緊張が走る。TPPなど大きな圏域での自由な経済活動には、激しい競争が待ち構える。

日本の抱える課題も重い。雇用の確保や子育ての充実、教育費の負担軽減等の少子化対策。団塊世代の高齢化に伴う介護・医療・年金への対応。さらに異常に膨れ上がった国債。幸い超低金利で利払いが抑えられているが、金利が上がったらどうなるのか。戦後のハイパーインフレで、国債が紙くずになった歴史もある。

そして経済は。ここのところ株価は上向きで税収は増えている。でも労働者の賃金や、山すそを形成する中小企業への波及は十分でない。常に時代は変わり、産業構造も変わる。社会から退場する企業もあれば、新しいビジネス市場も生まれる。ここに独自の技術や販売を事業化する「ベンチャー」が出てくる。ベンチャー企業の雄といわれる人を思い出す。

堀場雅夫氏。京都の堀場製作所の創業者で、昨年7月90歳で逝去された。自動車排気ガス測定で世界の8割のシェアを誇る。分析機器の分野で優れた開発・技術力を有し、独特の社風を持つ。

13年前のこと。福島駅西口に経済団体が入ったビルが完成した。起業者支援の役割を担うこともあり、記念講演をお願いすることになった。早速京都に飛んだ。府庁にほど近いホテルでお待ちした。ピッタリ時間に見えられた。がっちりした体に大きくいかつい顔。白髪に炯々たる眼光。80歳近くとは思えない精気がみなぎっていた。自らの才覚で道を切り拓いてきた、一流の人の風圧を感じた。

「今まで、目利き委員会をやってきたのや」。目利き?いぶかしげな私に、「見込みのあるベンチャー人を発掘し、世に出す手伝いをしているのや」。厳しい審査を通ると、一定額まで無担保で低利融資を受けられる。堀場さんが委員長、委員にはワコールや日本電産の社長ら、京都の錚々たる経済人が名を連ねる。人間性、将来性、技術力を試される申請者は、ちぢみあがるほど怖いだろうと思った。

土湯の奥の温泉に宿をとった。同伴の奥様を交えた夕食は楽しかった。強面のお顔がほころび、実にいい表情で、仕事や人生について話された。奥様の話も印象的だった。狭い部屋での新婚生活。休日も部屋にこもり部品を組み立てる夫。資金の工面。うちの人は研究や開発、モノをつくるのに夢中、とにかく仕事が好きなんです。昔を懐かしむように語る。顔に夢を追う夫の姿が好き、と書いてあった。

堀場さんは京大で、原子物理学者を目指していた。敗戦で断念。企業人を目指したわけではないが、独自の研究をしたくて無線研究所を立ち上げる。日本初の学生ベンチャー。だが事はそううまく運ばない。失敗につぐ失敗。不良品がひとつあっても製品にならないことを痛感。優れた部品づくりを徹底する姿勢が、会社の理念となり今に引き継がれている。

昭和28年株式会社へ。この時、「事業はよく分らんが、若いのが一生懸命取り組んでいるのやから」と、財界人が個人の資金を出してくれた。若手起業者の育成に力を尽くしたのは、この恩に報いようとの気持ちが背景にある。本人の情熱は勿論だが、京都の経営者に将来を見込んでくれた目利きがいたことは幸いだった。

寝ても覚めても開発、試作。でも好きなことは苦にならない。ソニーやホンダの創業者もそうだが、仕事に夢を追い、キラキラ輝く人のまわりには人が集まる。同志的な結びつきができる。自由闊達な雰囲気には、挑戦する心が根づく。自然と人が育ち、企業は強くなる。堀場はいう、「人生80年のうち、最も貴重な40年を使う仕事が、おもしろおかしくなくて、何のため生きるのか。おもしろいと思えるなら、情熱を持って働く。高い給料をあげても、楽しくなかったら良い仕事はできないし、新しいアイデアも出ない」。

おもしろおかしくは、社是となった。好きな研究に没頭し、新製品を追い続けているうち一流の企業になっていた。傍からは困難に見える道を、おもしろく楽しげに、駆け抜けた快男児がいた。

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