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市長の手控え帖 No.93「ある建築家を偲ぶ」

市長の手控え帖2

駅前駐車場の隣に、きれいなトイレができた。街歩きを楽しみ、イベント広場に集まった人たちの憩いの場になることを願う。久し振りに白河駅に降りた方が、“美しく調和のとれた景観になった”と口をそろえる。二年前には小峰城から駅前の空間が、国の都市景観大賞に選定された。近く完成する文化交流館が、さらに彩りを添えることを期待したい。
歴史文化ゾーンの真ん中に図書館がある。東西100mの大屋根と、ふんだんに光を取り込んだおおらかな造りは、高い評価を得ている。設計を担ったのは、第一工房。代表者の高橋靗一氏は、日本最高峰に位置づけられる建築家の一人。この春91才で逝去した。6月末、先生を偲ぶ会が催された。梅雨のさなか、この日はすっきりと晴れあがった。
各テーブル毎に、代表作の写真が飾られていた。私たちが囲んだのは、偶然にも、「白河市立図書館」のコーナーだった。ほどなく作品の数々が、スクリーンに映し出された。その中に、先生と私が、竣工したばかりの建物の前で微笑んでいる一枚もあった。深い感慨におおわれた。
思えば先生にはご迷惑をお掛けした。9年前の夏、市長に就任した頃は、実施設計に入っていた。私はかねがね、図書館に大きな期待を寄せていた。知を訪ね、物事を広く深く考える場であり、交流の場ともなる。いわば街の顔。それには十分な読書スペースに加え、多目的な機能も必要になる。さらに、この後予定している市民会館と一体となり、市民の広場になることを望んでいた。そのためには、面積を大きくしたうえで、敷地を西側に移す。周囲との調和を図るため和風的要素を強めることとした。
当然大幅な変更を伴う。しかし、設計には思想があり、建築物は分身だ。たやすく同意して頂けると思っていなかった。初めてお会いした頃、先生はゆうに80才を超えていたが、包み込むような笑顔の中に、精悍さがあふれていた。豊富な話題と、たっぷりのユーモア。軽妙さとウィットと諧謔が、ほどよく交じり合う。汲めども尽きない泉のようだった。
恐る恐る“設計の変更をお願いできませんか”と切り出した。案の定“そういう訳にはいきません”と一蹴された。何回か交渉したが折り合わない。建設のリミットが近づき、最終判断を下す段階になった。厳しいやりとりを覚悟していたところ、破顔一笑"分りました、やってみましょう”。ほっと胸をなでおろした。
変更後の設計は実にのびやか。先生は白河の歴史や文化に通じていた。特に“士民共楽”のコンセプトで造られた南湖が好きで、現代社会が見失ったおおらかさを感じていた。図書館にも、誰もが憩える場になって欲しいとの思いが込められていた。それが、ゆったりと開放感のある建築につながった。
同時に、根底に人間への讃歌があり、人こそ情報の宝庫との考えがあった。「インターネット等の情報は膨大だが、人の持つ情報の奥行きや多様さは伝えられない。全ては人と人とが会い、話すことから始まる」。図書館が情報を得ることだけではなく、本を介して、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを取るという、大事な役割があることをよく理解されていた。
気軽に足を運びたくなり、地域に開かれた図書館。その仕掛けとしての大屋根。明るく変化に富んだ読書空間と落ち着きのある交流空間。駅前に続く快適な小道。こうして知と交流の広場、白河の新しいランドマークはできあがった。
後日、先生の投稿文を目にした。「敷地を移し、条件の変更があったからこそ、市民に愛される図書館ができた。それは市長の英断だった」。胸のつかえがおりた。先生は粋で懐の深い人だった。心からご冥福をお祈りしたい。

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