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市長の手控え帖 No.32「地震と津波そして原子力」

市長の手控え帖


 3月11日、それは恐ろしい揺れでした。なんとはなしに福島県は岩代の国、地震には強いと思っていました。神戸・鳥取・上越やスマトラ・四川省と、打ち続く災害に同情を寄せつつも、自分のこととして向きあう意識は低かった。浜でも三陸とは違い、大津波は来ないと思いこんでいた。虚をつくように、とてつもない地震と津波が、現実の痛みを伴って、襲ってきました。
白河では、凶器と化した瓦と崩れ落ちた土砂で、15人の尊い命が失われました。ご遺族の心を察すると胸がふさがれる思いです。また、家屋の全半壊によって、避難所での生活を余儀なくされた方々にもご苦労をおかけしました。道路・下水道・学校等公共施設の被害も大きく、生活に大変なご不便をおかけしております。
被災者の住宅については、仮設住宅が完成し、また空き市営住宅や借り上げアパートにより、必要な分を確保できる見通しがついています。公共施設は今月初旬から来月下旬に国の災害査定を受け、速やかに復旧工事を進める予定です。さらに、高齢者世帯のガレキ処理費の助成、全半壊者への県義援金に同額を上乗せ、農林業者等への当座資金を融資する等、国の制度のほかに市独自の支援を実施しております。
小峰城の石垣も大きく崩れました。幸い、国史跡の指定を受けていたことから、文化庁の資金と技術支援により元の石組みで改修することができます。お城が今後とも市のシンボルとして愛されるためにも、時間をかけ頑丈な造りにしていきたいと思っています。また市内の歴史的建造物や文化財の改修も、関係者と十分相談しながら、早急に進めていく考えです。今は生活再建に向け全力をあげるべきは当然ですが、同時にこういう時こそ、冷静に歴史文化の保存・継承など、白河の良さを将来につなげていく努力を惜しまないことが必要です。
この災害でも白河の土台は揺らいでいません。いくらかひびは入りましたが、十分回復できます。むしろ、災いを福へ転ずる機会ととらえ、力強く前進させるバネにしたいと思います。

津波の破壊はすさまじいものでした。海岸に襲いかかる波があたり一面の家屋をなぎ倒し、ありったけのものを海へさらっていく。海神が怒り狂ったかのようです。慎ましく誠実に生きてきた人々への、なんとむごたらしい仕打ちでしょう。記憶に残る相双の浜は、キラキラ光る海原、手入れされた松林、海水を除ききれいにこさえた田。沖を行く白い定期船と海沿いに走る列車。一幅の絵のようでした。こののどかな光景が一変しました。国道6号から浜まで遮るものはありません。汗と涙で営々と築いてきた人生の証が、瞬時に失われました。
無慈悲で不条理な惨禍。それでも多くの人は、地震と津波ならば苦しくても立ち直れると考えていたことでしょう。しかし、原発事故は希みを一挙に打ち砕いてしまいました。放射性物質の飛散と避難指示。これが意味することのなんと重く、辛いことか。家財を、家族の遺体を、家畜を残し故郷を離れざるを得ない。いつ戻れるとのあてもない。地域が壊れ、生業の場が壊れた。これからどうやって命をつなぎ、子供を教育するのか。我が身に置き換えたら慄然とするばかりです。
戦乱や大災害で荒廃し、焼け野原になることは、これまでも繰り返されてきました。しかし、その都度不屈の魂と大地の恵みで蘇ってきました。しかし、原発の避難者は戻る故郷を喪失しようとしています。これほど寄る辺なく「集団流浪」する民がいたでしょうか。皆で救い助けなければなりません。職を提供し、住宅を保障し、十分な教育が受けられる手伝いをしましょう。そして、この方々が東京に出ていかなくとも済むように、この白河で生活の防波堤を造るのが、私たちの責務だと思っています。

日本人は、地震や津波とは折合って生きていくしかないと心得ています。打ちのめされても宿命を受け容れ、そのたび復興してきました。今度は違います。人災と呼ぶべき原発事故が黒い雲で掩ってしまいました。戦後、どの地域もより豊かな生活を求め懸命でした。原子力の平和利用という国の方針を受け、東京電力は海沿いに適地を捜す。これに双葉地方が手をあげ、県とともに誘致に奔走しました。貧国から抜け出すための選択。それは同時に危険と共存する選択でもありました。働く場を東電に求め、生活は安定。交付金や税収で財政は潤う。立派な公共施設が軒を競う。一方で、たびたび起こる事故や公開されない情報にいらだち、原発依存に不安を覚える。でも原発銀座の経済的恩恵から決別できない。その根底に「原発は幾重にも護られ安全」という信頼があったから。いや信じざるを得ないほど、東電と深くかかわりあっていたから。 しかし、安全神話が音をたてて崩れた。戦争に用いた核を平和産業に転用する意思は良い。ただし、パンドラの箱から抜け出た、途方もないエネルギーを制御する技術・備えはどうだったのか。東電ばかりではない。原子力の専門家・行政官は、その職に伴う良心と誠実さを持って対応してきたのか。鋭く問われています。

いや問われているのは、戦後の制度や考え方が大きく軋んでいるのに、正面から見つめ正そうとしなかった私たちかもしれません。「黒船」に「マッカーサー」。時を超え、今度は多重災害が「変われ」と背中を強く押しています。「窮すればすなわち変じ 変ずればすなわち通ず」。大困難を目の前にした今、国民の英知と勇気で、時代を先取りする対応が求められています。そうすることによって、必ずや未来への道は開かれると信じます。

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