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市長の手控え帖 No.61「今井珠泉画伯の迫力」

市長の手控え帖

今月から小峰城の石垣の修復が始まる。震災からの復旧事業としては最後の大仕事になる。崩れた石のうち使えるものは再利用し、往時の工法で積み直す。東北の関門として北に備え築かれた小峰ケ岡の城は、見事な石垣を誇る名城に数えられている。修復にあたり、国指定の史跡として、財政面や技術面で文化庁の全面的支援を受けられるのは心強い。

小峰城が歴史・文化的に重要な史跡であるとして、国の指定を受けたのは震災の7か月前。市長に就いた直後、石垣が長い年月と樹根の圧力で、見た目にも大きくふくらみ崩落を案ずる声を耳にした。すぐに指定に向けた作業を急いだのが幸いした。文化庁との協議が数か月遅れたら間に合わなかった。まさに間一髪、胸をなでおろした。完了には4年程度要するが、壮麗な石垣の再現を待ちたい。

さて秋の院展で本市出身の今井珠泉先生が、最高栄誉の内閣総理大臣賞に輝いた。福島県では初めての快挙であり、市をあげてお祝い申し上げます。県外在住功労者の知事表彰を受けられ、先頃までしらかわ大使を引き受けて頂くなど、県や市の美術・文化の振興に貢献されている。珠泉は雅号。恩師から王を頂き「珠」とし、下には水をたたえた南湖から「泉」としたとのこと。美しい真珠にこんこんと涌く泉。なんと雅できれいな名でしょう。

院展とは、日本美術院開催の公募展をいう。明治31年、岡倉天心らが美術院を結成し、絵画展を催したのが始まり。その後一旦解散し、横山大観らが再興したことから、再興院展と称し秋に開かれている。再来年はその百年にあたる。出品者には序列がある。一般、研究会員、院友、特待、招待そして同人。先生は最高位の同人。これまで、本県では4人しか出ていない。

入選3回で院友、入選20回または大観賞1回で特待、奨励賞15回または大観賞2回で招待、が推挙の条件。招待の中から、高い芸術性と人間性を備えた人が同人に選ばれる。同人は現在32人。同人への道は険しく遠い。憧れの地位には厳しさも伴う。院展には毎回出品しなければならないし、生半可な絵では尊厳をおとしめる。大変な緊張を強いられるようだ。同人を除き、地位が上ったからといって入選する保証はない。老いも若きもない。今回も99才の女性画家がいる一方、先生が教鞭をとった大学の若い教え子もいる。

同人で構成する審査会で、過半数の手が挙がらないと入選できない。厳粛な空気の中、一枚の絵はわずか数秒で当落が決まるという。渾身の力で半年かけた作でも、実績のある人の作でも一切斟酌なし。全て実力がものをいう。院展ではレベルを維持するため、入選数は270程度に絞る。毎年新人が力をつけてくる。勢い、何人かのベテランが脱落していく。弱肉強食、容赦のない競争が繰り広げられる。先生は、「凡人だから勉強しなくては生き残れない」と自らを叱咤し、より厳しい立場に追いこみ名をなした。一筋の細い道を、よくぞここまで歩いてきたものだ、としみじみ述懐されている。

題は「流氷幻想」(本紙最終面に掲載)。縦2m・横2.5mの大作。先生は、流氷や北の大自然で命をつなぐワシ・タカを題材にする。4年前の文部科学大臣賞も流氷と上空を舞うオジロワシを描いた。今回は流氷そのものを表現している。右は全て氷、左は溶け始めた氷の裂け目から顔を出す海面に、月が煌々と照る。近づいて目をこらすと、氷の表がデコボコしている。なるほど、氷と氷はぶつかり盛りあがる。細部をゆるがせにしない写実に魅入った。それに氷には定まった形がない。形のないものを表現することは難しいし、白で表情を出すには優れた創作力がいる。また海が氷と交わるところは、深い青に白がまじる微妙な色あいになる。深青の上に塗った白を、雑巾で巻きあげるようにふき、この色を出す。思いもよらない道具を用い、真に迫る技量に驚くばかり。

流氷は神秘的。アムール川の水がオホーツク海に流れこみ氷ができ、シベリアの風と海流に運ばれ、北海道東沿岸が一面氷で埋めつくされる。やがて春になり、氷がゆるむ「海明け」を迎える。先生は「風景が身体にしみこむ」まで流氷の地に足を運ぶ。五感を研ぎ澄まし、自らも風景の一部となり対象を見つめる。

この絵で、一面の氷は真冬を、溶け始めた氷は春、月は夜明けを暗示している。厳しい冬とその先にある喜びと希望を表している。震災と原発に苦しむ福島への支援のメッセージとなっている。先生は、私が総理大臣賞に値するかどうか、来年の作品で真価を問いたいと話されている。画は格闘技であるという先生は83才。たじろぐほどの気力であり、意欲に満ちている。今井画伯のさらなる挑戦は続く。

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