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市長の手控え帖 No.81「マナーの大切さ」

市長の手控え帖

この10日、三菱ガス化学の第1期工事の起工式が行われる。誘致交渉から足かけ6年。この日を迎えられ、誠に嬉しく感慨深い。震災前に進出は内定していたが、災害の規模と原発事故の不安の中で、不透明になりかけたときもあった。幸いにして、会社と県・市の信頼は保たれた。それは、当初から白河への進出に並々ならぬ情熱を傾けられた、K役員の存在に負うところが大きい。広い視野と高い見識で財務と経営企画の中枢を担う。

物腰柔らかく、いつも笑みを絶やさない。まさしく“三菱”の紳士である。また常にそうであるように、仕事ができ器の大きいKさんを、優秀な部下が支える。会社は将来をかけ投資をする。人は確保できるか。理工系の高校・大学は。交通アクセスは。地盤、水、病院は。交渉は真剣そのもの。いい緊張のなか、誰もが未来を拓く充実感にあふれていた。

何かをなすには人の関係が重要。人柄を知り親密さを増すうえで、食事やゴルフを共にすることの効用は大きい。協議が始まった頃、ゴルフで親善を、との話しがでた。内心戸惑った。そこそこの経験はあるものの、ヘボの典型。しかも5年前にさよならしていた。「おつきあいできそうにない。代わってくれないか」と部長に懇願。「これは仕事です。代理はできません」。やむなく意を決した。師匠の教えもよく、何とか迷惑をかけずにすんだ。

再びゴルフを始めた。といっても、恥ずかしながら、いまだ100を切れない。届きそうですっと逃げていく。わずかな間に楽々切る人もいるのに。ゴルフにも急行と鈍行があるものだ。足が遅い分、景色がゆっくり流れ、旅情を味わえると慰めてはいるものの…。やはり寂しい。

この日は17ホールまで93。最終は池越えのショート。苦手の池がやけに広く見えるが、ミスしても6打ではいくだろう。「獲らぬ狸の皮算用」とはよくいったもの。気は高まるが、持ち前のせっかちさも高まる。クラブがボールにあたる前から、頭は起きあがり、目はグリーンに。悲しげにボールは池に吸いこまれる。まだチャンスはある。気を取り直し3打目。ちらっと水の妖精が右目をかすめた。途端に真横にシャンクし、またまた池へ。結局は7。夢は破れた。

あるとき5連続でボギー。今日こそはと気分は上々。怪我しないようにと、ドライバーを軽く振った。これが間違い。力を抜くのと手抜きは別。体が回らず手打ちになり、急カーブで右OBゾーンへ。打ち直しは、気負い過ぎて林の中。ピン方面は木立で狭い。横は広くあいている。自分の力を量れば、一旦横に出すのが常道。でも素直になれない。「人生はアドベンチャー」と狭きを狙う。ゴルフは確率のスポーツ。キンコンカンときれいな音を残し奥深く分け入った。この日も“本来”のゴルフだった。日暮れて道遠し。

ゴルフは心身を開放させる。ひたすらボールを追い、しばし憂さを忘れる。木々の葉、風のささやき、澄み渡る空、鳥のさえずりに命がよみがえる。気のあうメンバーとの語らい。プレイの後のビール。適度な疲れが心地よい眠りを誘う。

ゴルフは止まっている球を打つだけ。とはいえこれが難しい。ボールはひとつとして同じ状況にない。風の向きや強さ。前上がりか前下がりか。浮いているか沈んでいるか。バンカーでの位置、埋まり具合。芝は順目か逆目か。それぞれに応じてクラブを選びスタンスをとる。ゴルフの面白さは、自分が選手で審判。結果は全て自らが引き受けることにある。

ゴルフは1人でプレイして、完結させる1人遊び。といってもまわりの人への配慮は欠かせない。調子がいいと多弁、悪くなると不機嫌になりがち。スコアも大事だがより大事なのはマナー。自らを律し、気遣う心が場を楽しくする。

かつて杉原輝雄というプロがいた。50年現役にあり、勝利数は尾崎将司・青木功に次ぐ。小柄で距離は出ないが、グリーン周りが滅法うまい。何より感心するのはマナー。ドライバーを打つと、数本クラブを持ち走る。プレイが早い。崩れても投げやりにならない。最後に深々とゴルフの神様に礼をする。清々しい人だった。

Kさんは腕もいいが、何より立ち居振る舞いがいい。静かに淡々と、そして楽しげ。私がたまにいいあたりをすると“グッドショット”と声をかけてくれる。ゴルフは品格という。Kさんのゴルフは上品で、その人生もかくのごとしと思わせる。

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