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市長の手控え帖 No.105「オードリーの輝き」

市長の手控え帖2

 

 

 

あの頃、スクリーンは夢の世界だった。はるか昔の高校生。土曜の午後は、うきうき。すでに心は劇場に飛んでいる。『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーン。『カサブランカ』のイングリッド・バーグマン。『いそしぎ』のエリザベス・テイラー…。映写機の回る音が消え、場内が明るくなっても去り難かった。
「日本人の好きなハリウッド女優ランキング」という記事があった。1位はオードリー。『風と共に去りぬ』のヴィヴィアン・リーの3倍もの票を得た。アメリカ人が選ぶ1位は、アカデミー賞4回の実力者、キャサリン・ヘプバーン。日本人は清純さを求め、アメリカ人はたくましさを評価するということか。
ある国の王女が、ローマを訪問する。過密な行事と束縛にうんざりしたアンは、こっそり宮殿を抜け出す。街で偶然、グレゴリー・ペック演ずる新聞記者と出会う。彼女の素性に気づいたジョーは、王女の秘密の体験をスクープしようとする。サンダルで街歩き。名所の数々に目を輝かせ、ダンスに興ずる。つかの間の自由を満喫する王女に、特ダネの心は消える。
監督は、映画の成否は王女役にかかっているとみた。優美さと上品さ、非アメリカ的な話し方をする女優を求めた。そこにオードリーが、すい星のように現れた。ハリウッドで主流のマリリン・モンローとは正反対。無邪気な妖精は、あっという間に日本人の心をつかんだ。
『ティファニーで朝食を』、『シャレード』、『マイフェア・レディ』。次々とヒットする。品のあるショートヘアー、くるぶしまでの短いパンツ、スカーフに包まれた髪、洒落たサングラス。オードリーのファッションは、女性に大流行し、一大旋風を巻き起こした。
美貌と評されたが、容姿にはコンプレックスがあった。エラの張った顔、大きめの目・鼻・口。印象的な太い眉は、目や鼻に視線が集まらないよう工夫したもの。評判の衣裳も細身を隠すためのものという。彼女は、欠点を欠点として受け止め、これを類いまれな魅力に変えた。
隠された苦労もある。戦争中、居住したオランダはドイツの占領下。オードリーというイギリス風の名は危険と、偽名を使う。栄養失調や貧血に苦しみながら、反ナチス運動を手伝う。悲劇のアンネ・フランクと同年。犠牲を免れたものの、窒息しそうな時代を生きた。その体験が、ユニセフ親善大使としての、献身的活動につながっていく。
映画は風景で決まる。この作品は、当時としては珍しく、全てローマで撮影された。監督は、物語と人物に焦点をあてるため、あえてモノクロにした。目論見どおり、彼女の華やかさを引き出したが、同時に、ローマの魅力も存分に映し出した。陰の主役はローマといえる。海外旅行など夢のまた夢の頃、オードリーと一緒にローマ旅行ができた。
王女がジェラートを食べる「スペイン階段」。相乗りのスクーターで駆ける「コロッセオ」や「ヴェネツィア広場」。美容室前の「トレヴィの泉」。そして有名な教会の「真実の口」。
嘘をいうと、口から手を抜くとき、噛み切られるという。グレゴリーが、手を袖の中に引っ込めてみたらどうかと提案。監督はうなずき「オードリーには内緒」と念を押す。「手がない」と驚く場面は、演技とは思えないほどリアル。
王女の記者会見。ジョーは、こっそり撮った写真を封筒に入れ、そっと王女に渡す。見つめ合う二人。王女は自らの宿命に生きることを覚悟する。笑顔とともに振り向いた瞳に、かすかに涙が光る。「ローマは永遠に忘れ得ぬ街となるでしょう」。万感の思いを込め、奇跡のひと時を与えてくれた花の都に、別れを告げる。わが青春の映画は、今も心に刻まれている。いつか魅惑の街を歩いてみたい。

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