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市長の手控え帖 No.201「「『センスがいい』とは?」」

世の中には「要領のいい」人がいる。県の財政課で予算編成していた頃のこと。査定に夜遅くまで四苦八苦している私らを尻目に、テキパキ処理し、早めに帰る同僚がいた。秘訣を聞いた。「まずは優先順位を付ける。新規事業や、少額な要求でも将来大きく膨らむものには時間をかける。一方、日常的な業務は軽く流す。うまく手抜きすることかな…」。

なるほど。私は、重要なものとそうでないものの切り分けが不十分。入念に調査すべき事業を未消化のまま査定案を作り、課長から叱られた。また、こうも教えられた。「課長なら、どういう視点で判断するかを想像することも大切」。自分の木を見て森を見ない大局観の欠如と、要領の悪さを痛いほど思い知った。

その人は、気配りも上手だった。上司の趣味や好みを心得て、宴会では喜びそうな話題を取り上げ、座を盛り上げていた。といって、自分を特別売り込む訳でもない。「要領がいい」や「気が利く」というのは才知とも違う。また、必ずしも教えて身に付くものでもない。ある種の動物的感覚のようなものかもしれない。

 

「センスがいい」と表現することもある。「要領の良さ」と重なる点もあるが、いささか違う。センスはいくつかニュアンスがあり、的確な表現が難しい。AI風に言えば「単に知識だけでなく心地よさ、好ましさを感じさせる。バランス感覚、コミュニケーション力に優れ、気が利く…」。要は、知識や経験に感性がうまく組み合わさった力といえる。

県庁時代、舌を巻くほどセンスのいい部下がいた。ある団体から講演の依頼を受けた。彼に「こういう資料」を用意するように伝えた。内心、相当手を加えることになるだろうと思った。だが、できあがったものを見て驚いた。

私の言いたいことが、見事に整理されているではないか。どういう視点で作ったのか聞いてみた。「日頃話されている内容や、仕事への基本的な姿勢を書き留めており、このテーマでも、何を話したいのかいろいろ思いを巡らせました」。

彼は名門大学の出身ではなく、いわゆる秀才タイプでもない。だが、事の本質をしっかり把握した上で、必要な時に必要なことを過不足なく話す。また、常に勉学を怠らず、上司の考えや行動をよく観察していた。"優秀""仕事ができる"という表現ではしっくりこない。どの言葉を当てても腑に落ちない。これはもう"センスがいい"としか言いようがない。

 

逆のタイプもある。学歴や組織内でのキャリアは申し分ない。十分な知識を備え、説明も理路整然としている。だが何かがかみ合わない。同じ会議で同じデータを見ている。ある人は数字の説明に終始し、ある人はその背景や展望まで言及する。こういう違いと言ってもいい。置かれた環境の中で、求められる判断や振る舞いができるか否かであろう。

才能は先天的なもので時間と共に開花する。センスは様々な経験や研鑽を積む中で磨かれる後天的なもの。各々の課題に対処する過程で知識を身に付ける。コミュニケーション力や調整力を付け、事の本質を捉える力を養っていく。

三国志の故事に「男子三日会わざれば刮目して見よ」とある。何事かを学ばんとする強い意志を持ち続ければ、短期間のうちに成長するとの意味である。会社や役所で、大きな期待をかけられながら、実力を発揮できなかった人もいれば、当初は目立つ存在ではなかったが、時を経る毎に懐が大きくなった人もいる。

件の作成者は、中枢ポストを歴任し、今県の屋台骨を支えている。温容にして器大なり。一軍の将足る資質を備えている。「センスの良さ」とは、いわく言い難いもの。学歴でもなく、才能でもなく、出自でもない。努力を重ねる中で身に付けた、世間智のようなものかもしれない。

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