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市長の手控え帖 No.69「日本を表現する歌姫」

市長の手控え帖

ここ数年、市民歌謡祭や音楽会に招かれることが多い。皆さん思い思いの派手めのドレスやジャケットに身を包み、スポットライトを浴びる。教室やサークルで鍛えた自慢の歌声を披露する。誰もがいきいきしており、プロ級の人も少なくない。この頃めきめき上達し、あちこちで優勝している知人がいる。「道場破りがいつの間にか道場主になったようだね」と言うと、本人も嬉しそうにしている。

歌謡曲といえば美空ひばり。他を寄せ付けない山脈を築いた。一流の歌い手はひばりにあこがれ、目標としている。昭和とともに世を去りはや25年。この24日が命日にあたる。圧倒的な歌唱力は神からの授かりものというほかない。一方、世に優れた才能を早々にしまいこんだ歌手がいる。ちあきなおみ。ひばりに匹敵するのはこの人との声も根強い。低めの甘く切ない声で、語るように、ささやくように歌う。吐息交じりに人生の哀感・情感を描き、「喝采」や「紅とんぼ」では心の陰影を見事に表現した。

絶版となった「アゲイン」という歌がある。大女優への道を歩み、ひまわりのように輝いていた夏目雅子の「時代屋の女房」の挿入歌。夕暮れ時、ほどよい疲れにまどろむ耳もとを流れゆく歌声は、実に心地良い。美空ひばりには吸い込まれる。ちあきなおみにはため息が出る。一人は伝説になり、一人は伝説になろうとしている。

現役では石川さゆりか。「津軽海峡・冬景色」でアイドルから脱皮し、「波止場しぐれ」「天城越え」「風の盆恋歌」などの名曲を世に出した。女性の情念、勁さ、艶っぽさを表現する力は年を追うごとに増した。特に天城越えは、はるかな高みに登るための試練の曲だった。若くして、全て心の叫びのような難しい曲を、よく歌ったものだと感心する。「飢餓海峡」は水上勉の小説を歌にしたもの。三國連太郎と左幸子の名演で史上に残る映画にもなった。胸をかきむしるようにこの世の喜び、哀しさを激しく、切々と訴える。映画のシーンに重ね、聴くたびジーンとくる。

石川さゆりは、誰よりも詞を大事にする。歌詞を追いかけるのではなく、手もとに引き寄せる。意味するところを深く解釈し、深く吐き出す。日本語の美しさや、繊細さ、色彩、臭いまで伝えようとしている。言葉の伝道師といっていい。

彼女の地方を見る目は温かい。豊かな自然と人々の営為の結晶であり、外国人が箱庭のよう、と賞賛する日本の風景をいつくしむ。津軽、能登、越前、瀬戸内。土地の情景と人の息づかいを三分間の世界に込める。それだけに大震災に心を痛めた。歌で人を救えるのか、無力感を味わいながら励ました。その中で出会ったのが、東松島の浜甚句。地元で漁師に長く歌われてきた民謡で、ずしんと胸に響いた。しかし譜面はない。古老の節回しを何度も聞き、音符に落としてみた。これを本人の前で歌い、何とか合格点をもらった。甚句をもとに、浜びとの暮らし・情愛を描く「浜唄」という、味わい深い歌ができた。石川さゆりは、流れ行く人の世を、歌で切り取る、時代の語り部なのかもしれない。

由紀さおりも詞を大事にする。両手で包むように歌う。学生時代、ラジオから流れる透明な声に聴き惚れた。「夜明けのスキャット」は、グループサウンズに慣れた耳にとても新鮮だった。その後「手紙」や「恋文」といった日本的響きのする曲がヒットした。そして強い印象を与えたのが童謡コンサート。由紀姉妹の清澄で見事なハーモニーが心をとらえた。日本人の心情そのものの童謡・叙情歌を通して、四季の美しさ、郷愁を表現する。

「早春賦」「おぼろ月夜」「さくら」「我は海の子」「村祭」「里の秋」「冬の夜」。生活に溶け込んでいた情景が、鮮やかに浮かび、懐かしさがひろがる。由紀は誰でも知っているからこそ、自分の思いを込めすぎず、基本を崩さず歌う。人には、人それぞれの「赤とんぼ」があり、「ふるさと」がある。その思いが入り込める余白を残したいという。二人の活躍で童謡がよみがえった。それは日本を、地域を見つめ直すことにつながっている。

衝撃的な論文が発表された。少子化の進行により、30年後には、日本の半数を超える市町村が消える恐れがあるという。国が衰退するばかりか、営々と作りあげてきた日本人の精神や、ものの考え方にも大きく関わってくる。「日本」を育んできた田園・山河を荒らしてはならない。社会の大転換を伴う問題だからこそ、頭だけではなく豊かな感性や鋭敏な感覚も必要。それには女性の役割を重視し、女性の活躍できる条件を整えねばならない。難局を切り拓く鍵は女性にあると思う。

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