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市長の手控え帖 No.73「田園への回帰」

市長の手控え帖

急速に人口減少化の議論が熱を帯びてきた。国は国土のデザインとして、自治体は地域の将来をかけ、本格的な対応を始めた。きっかけは、5月に増田元岩手県知事や官僚OBら、日本創成会議の発表した論文。全国の人口減少を予測し、これを食い止めるため、少子化対策や地域振興策、女性・高齢者の活用策を提言している。

特に衝撃を与えたのが、30年後に日本の約半数にあたる896市町村で、20~39歳の女性が50%以上減少し消滅の可能性があること。うち523市町村が、人口も1万人以下となり消滅するとされたことだ。新聞・雑誌で大きく取り上げ地方議会でも活発な論戦が交わされた。政府も「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げ、地方創生担当大臣を置くなど素早い反応をみせた。避難者を抱える福島県は対象に含まれていないが、この分類に入る市町村は少なくないと思われる。

「消滅」と名指しされた自治体の反応は複雑。地域の維持に懸命な我々に、冷水を浴びせるものでけしからん。やっぱりだめなのかと肩を落とす。お偉方が机上の理屈を言っている、冷静にみていこう…。「増田レポート」は政府・自治体に警鐘を鳴らし、いずれ来る危機が目の前に迫ってきたことを、ショッキングな形で国民に示した点で大きな効果があった。

レポートは、人口減少は若者の大都会への流出が最大要因であり、この流れを変え地方に呼び戻すことが必要。この受け皿として、地方拠点都市に投資と施策を集中させるべきという。連動するように、国でも人口20万人以上の都市を「地方中枢拠点都市」と指定し、その圏域の生活・産業・文化の中心となるよう、補助金や交付税で手厚く支援する政策を打ち出した。日本列島を「選択と集中」により再編成するように見受けられる。

日本は、誰でもどこにいても一定の社会的利益を受けられる「国土の均衡ある発展」を軸としてきた。道路や新幹線を整備する、公共事業をおこす、工場を誘致する、米価を保障する。過疎地の底上げを図り、地域間格差の縮小を図る。的を射た政策だと評価している。だが、ここにきて国は、政策を転換したようにみえる。誤解を恐れずに言えば、「小さい自治体や農山村の面倒はみきれない」と聞こえる。

全国で3万人未満の自治体は人口の8%にすぎないが、国土の48%を占めている。農山村が疲弊して、中心の都市が栄えるのか。都市が周辺の生活や経済を支えると同様に、農山村も都市を支えている。農山村への投資は効率が悪い。ならば、効果のあるところに集約するのはやむを得ない。そう判断しているとすれば、木を見て森を見ない近視眼的思考だ。

広い東北・北海道で20万都市は数えるほどしかない。本県の場合も福島・郡山・いわきの3市。会津地方は、県の面積の半分近く占めるが人口は約28万人。白河地方は約15万人、相馬地方は約11万人。これらは、自立できないからいずれかの都市の傘下に入れということか。非現実的な議論に思えて仕方がない。

私たちはどういう視点で地域をつくるかを考え直す時期にある。かつての経済成長は安定した社会をもたらした。国はせっせと税を地方へ仕送りする。安い土地・賃金を求め工場がやってくる。国土の均衡ある発展とは、外部の力を取り込むことでもあった。内にあるものを手間暇かけて磨くことよりも、てっとりばやく外から運ぶ。いつしか外発的手法に慣れ過ぎ、変化に対する適応性をなくした。

時代は変わった。財政は火の車、企業の海外移転、超高齢化…。国はもはや地方を庇護する力はない。地方は、中小企業や農林業の振興、再生エネルギーの導入により、地域で富を産み地域で循環させる。内発的手法を中心に据え、これに外の力を組み合わせることが求められる。大震災は大きな試練だったが、過去を検証し、新しい道をつけていくまたとない機会でもある。「窮すれば通ず」。知恵は生まれる。

人は変えるのをためらう。危機が迫っていてもすぐには腰をあげられない。しかし、確実に新しい時代の風が吹き始まっている。日本各地で、都会から移住し農林業に就く若者や、高収入を捨て子育てをしている家族が増しているという。彼らは生活の中から仕事を産み出し、仕事を通して生活の質を高めていく。新たな生き方を求め、田園への回帰が始まろうとしている。人口の予測は当たったことがないそうだ。恐れ過ぎることはない。

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