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市長の手控え帖 No.95「特許は宝の山」

市長の手控え帖2

“東京特許許可局”という早口言葉がある。特許や商標、著作権のように、知的な活動から生まれる技術の発明やアイデアは、文明の発展に欠かせない。だが形を持たないために真似されやすく、創意工夫の意欲が失われる恐れがある。そこで、創造的発明を保証し、研究開発を促すものとして特許制度ができた。
日本の特許制度は130年前につくられた。中心となった人物は高橋是清。白河だるまのような福々しい顔で、“ダルマ宰相”と呼ばれた。6度も大蔵大臣を務め、“高橋財政”とも評された大物政治家。その経歴が面白い。アメリカ留学の折、奴隷に売られ、ほうほうの体で帰国した。事業でも大失敗し一文無しになる。最後は軍部の凶弾に倒れる。七転八起の人生はまさに波瀾万丈。
高橋は明治の初め、ある外国人に「日本人は真似るのが上手。でも、アメリカのように発明を大事にしないと一等国になれない」と言われた。心に火がついた。外国の文献を猛勉強し、政府に特許の重要性を訴えた。明治憲法より4年早く、専売特許条例ができた。
アメリカの特許への執念はすごい。それは、広大な国土を開拓するフロンティア精神と、イギリスからの独立の苦闘の中で培われた。特許制度の整ったイギリスでは、産業革命が進行し、著しい発展をみせていた。アメリカの技術は遅れをとっていた。建国の指導者たちは、技術面で外国に従属していては、真の独立はできないとの考えを共有していた。
初代の長官は、第3代大統領ジェファーソン。ワシントンらとともに制定した憲法には、すでに特許の保障が明記されていた。半世紀後、自らも船の特許を持っていたリンカーン大統領は、「特許は天才の火に利益という燃料を加えた」と演説。弾みがついたように、発明王エジソン、電話のベル、飛行機のライト兄弟ら多くの発明が生まれる。19世紀末には、西欧を抜き世界一の技術国になる。
アメリカは、特許を武器に圧倒的な経済力で世界に君臨する。日は昇り、日は沈む。安住していた訳ではないが、いつしか進取の気概が薄れてきた。間隙をぬうように、日本が特許数も伸ばし、猛烈に追いあげる。守勢に回るアメリカ。だが、特許の国は逆襲に転ずる。研究段階での発明を保護する。他国の特許侵害に厳しい制裁を加える。大学の研究成果を特許化し、産学官の連携を深める。鮮やかな特許政策で見事に甦った。
日本が製造業で世界をリードした時代でも、基盤技術の特許はアメリカが握っていた。アメリカは土台そのものに大きく網をかける。だから強い。日本は改良の技術。ここに到達するのは難しくない。「真似」から「学ぶ」さらに「創る」へ進化する中国や韓国に追いあげられ、モノづくりの優位が揺らいできた。
時代はコンピュータから、人口知能やビッグデータへと移りつつある。競争の土俵が大きく変わった。それは特許の内容が変化することを意味し、日本が知的分野で世界トップに踊り出るチャンスでもある。その為には、高いレベルの研究に人と金を投じ、その成果をがっちり保護する。一方で自社特許の一部をあえて開放し、ライバル企業との連携の中で、最先端技術をいち早く普及させ、世界標準とする。囲い込みと、オープン化の組み合わせが大事だといわれる。
さらには、休眠特許の活用。公開されているものの、未使用の特許は全体の半分にのぼる。価値ある技術が眠るのは社会的損失。これを他企業、特に中小企業に移転し、新製品の開発や新規事業に役立てるのは、有効な方策だ。
今も昔も特許は宝の山。首相官邸斜め向かいの特許庁の玄関に、初代長官高橋是清の胸像がある。優しげな眼ざしは、日本の未来にエールを送っている。

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