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市長の手控え帖 No.33「風評をのりこえて」

市長の手控え帖


大震災から3か月近くになります。仮設住宅ができ、市営住宅・民間アパートを含め、被災者の当面の生活の場が確保されました。道路や下水道等の公共災害も国の査定を受け、来月から順次復旧に取りかかる予定です。被害に遭われた皆様には、生活再建に向け様々な課題が待ち受けているものと思いますが、市も精一杯支援してまいります。一緒にこの坂を登っていきましょう。
福島県とほかでは、災害の様相が大きく異なってきました。本県は地震や津波の「通常」災に加え、何か「異様」なものに襲われた特殊な地と見られるようになりました。いつしか報道のトップは津波から原発へ移り、国民の目には福島が、国際的には日本が丸ごと放射能汚染との印象が植え付けられてしまいました。悲しいかな真実は容易に伝わらない。心配に及ばない値であっても、福島や日本というだけで正常な扱いは受けられない。風評による偏見や差別が生まれています。福島県人のホテル・レストランの利用、車の乗り入れお断り。農産物の取引は減り価格も下がり、工業製品ですら制約を受ける始末です。
風が運ぶ噂や世上の評判は得体のしれないものが多い。しかし、一旦心のうちに入ると取り除くのが難しい厄介なしろもの。よく風評は無知や迷信からくるといわれ、今でも未開の地では深刻な事件を起こす要因となっています。しかし、誰もが手軽に正確な情報が得られる現代において、この手の風評がばっこするとは思いもよりませんでした。
寺田寅彦は言う「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」。普通でない精神状態の中で、正しい知見のもとに正しく判断することがいかに難しいか考えさせられました。

いわれなき偏見と差別による悲しみは、歴史の汚点として刻まれています。足尾鉱毒事件。銅山から渡瀬川に流れ出る毒素や酸性雨により、農地や山林はほぼ壊滅。生きるすべを失った農民は、救済を求め抵抗。義人田中正造は明治天皇に直訴し、窮状を訴えるも届かなかった。反対運動の中心谷中村は廃村を命ぜられ強制移住。国と会社に逆らう不届きな輩と、白眼視される悲劇がありました。
広島・長崎の原爆。アメリカの非道に憤る一方で、患う者への視線は同情ばかりではなかった。井伏鱒二の「黒い雨」に描かれたように、患者は自らの病と闘うと同時に、忌避し厄介者扱いするような世間の目にも耐えてきた。体と心の被爆に苦しむ人々を忘れてはいけません。 公害の原点水俣。チッ素から不火知湾へ流れ込む有機水銀により豊饒の海は苦の海へ。多くの人が苦しみながら亡くなり、いまだ後遺症を抱えている。当初は忌まわしい風土病や疫病と決めつけられ、会社関係者から蔑視される忍従の日々を送った。また、「部落」出身者やハンセン病患者の苦役にも涙を誘われます。
そして、福島に対する現在の差別です。東京へせっせと電力を送り、安全でおいしい食べものを届け、これなくしては製品にならない大事な部品をつくってきたのに。いかにも不条理です。この震災で東北は危機にある。さし迫った危機は乗り越えるか、沈み込むかの大きな分かれ道でもあります。「白河以北一百文」と蔑まれ、軽視された東北が日本の新たな産業や環境のモデルとなり、暮らしのベクトルを変えるまたとない機会と考えるべきです。

被災のさなかキャンディーズの田中好子さんが旅立ちました。スーちゃんの誠実さと愛嬌のある不器用さに好感を持っていました。役者になっても、存在感のあるいい演技を見せてくれました。「黒い雨」では放射能の雨にうたれ、体を蝕まれる若い女性を演じ主演女優賞に輝く。その才能と精進ぶりが高く評価されていただけに残念です。乳ガンと闘い、明日をも知らぬ病の床から被災者にエールを送りました。何と強い精神力でしょう。にこやかな遺影は、芸能活動を支えてくれたファンと被災者への「微笑みがえし」のように思えます。
「明日に架ける橋」が歌われているそうです。「サウンド・オブ・サイレンス」と並ぶサイモン&ガーファンクルの名曲。我らが青春を鮮やかに色どっています。2001.9.11のテロの折にもポール・サイモンが歌い国民を勇気づけました。この曲は、ベトナム戦争で国論が分かれる不安の中で生まれた。こちらは逆巻く流れの中でもがいているが、向こう岸は希望に満ちた世界、ここへ橋をかけ明日をつくろう。大災害に立ち向かっている人々に希望を届け、未来を拓く力があるのでしょう。
千昌夫、新沼謙治が故郷の大船渡や陸前高田で、鳥羽一郎が津波の浜で歌う。誰もが思い出をたぐり寄せ、愛する人を偲び、聞き入ります。震災直後に欲しいものは「まず水、次に情報、三つ目に歌」との記事がありました。歌の力は大きく、政府の高官や偉い学者の復興構想よりはるかに心に沁み入ります。時は容赦なく流れていく。各界のリーダーと識者はまなじりを決して震災の向こうを見つめなければなりません。

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