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市長の手控え帖 No.157「信ずる道を一筋に」

市長の手控え帳

 

ロシアは世界を百年前に戻してしまった。帝国主義をむき出しに領土拡大に狂奔する。プーチンは自らをピョートル大帝に重ねている。彼の地図にウクライナは存在しない。ロシア連邦の一部としてあるだけ。ほくそ笑む中国。主権国家への侵犯が許されるのなら"中国の一部"たる台湾の併合に何の問題もない。
米国の目がウクライナに向いているのを幸いに、南太平洋諸島に触手を伸ばす。資金援助を餌に台湾と国交断絶を迫る。台湾は巨大な龍に呑みこまれないよう必死。頼みとするのは日米。台湾は米国の地政学上の要衝の地。日本は運命共同体的な関係。台湾の誇る世界最大の半導体メーカーが、日米に工場を建設する。これも台湾の安全保障策の一つだ。
だが日本は50年前に国交を断った。米国も同様だが"台湾基本法"を制定し、関係を保っている。日本では一部に"日台交流基本法"制定の声もあるが、いまだ実現する気配はない。"台湾の有事は日本の有事"これだけ経済的・文化的な関係が深く、共に超大国と向きあっている台湾との連携法がないのは誠に疑問だ。
在日大使館の役割を担っているのが台北駐日経済文化代表処。あくまでも民間機関の扱い。外交特権はない。代表は謝長廷氏。立法議員、高雄市長さらに行政院長(首相)を務めた大物。76歳の今も台湾各都市との交流を促進するため、日本各地を精力的に回られている。
昨年7月白河に来られた。本市と台南市は観光・教育面での交流がある。小田川小の児童にバナナを贈り、"台湾フェア"では法被姿で店頭に立った。「白河はほっとするマチですね」どこか懐かしい雰囲気を感じられたのだろう。
謝代表は努力と信念の人である。台北の生まれ。父が投資に失敗し貧しい幼少期を過ごす。商業高校の時、器械体操で国体優勝。五輪を目指したがそれは叶わなかった。ここから一念発起。猛勉強の末、最難関の台湾大学法学部へ。在学中、司法試験に合格する。さらに国費留学生に選ばれ、京都大学大学院へ。
来日した9月。まさかの国交断絶。奨学金は?ビザは?幸い民間団体の支援で事なきを得たが、生活は楽ではない。奥さんと近くの中華店で働いたという。「哲学の道」を歩き、法の目的とは、法の正義とは何かを考えた。帰国後、弁護士になる。当時はまだ戒厳令下。父からは政治にかかわるなと戒められた。だが国民党独裁による社会的な不満は募っていた。
ある事件で逮捕された民主活動家の弁護を引き受けた。法哲学を学んだ者として「自分が正しいと信じれば政治問題にも関わる」との信念を持っていた。1986年9月、謝代表たちは密かに民主進歩党を結成。奥さんに遺書を渡した。命をかけた行動だった。党名も謝代表が考案。これを将経国総統は黙認。12月の立法議員選で当選し党も躍進した。翌年38年にも及ぶ戒厳令が解除された。
李登輝の大英断で憲法が改正され、1996年総統の直接選挙が行われた。その後国民党と相互に政権を担い、台湾に民主主義体制が根づいた。李登輝と謝長廷代表。党こそ違え、自由と民主主義の国づくりで結ばれていた。京都大学出身であることも信頼を強めた。
昨年秋夕食を共にした。和やかな雰囲気。酒がすすみ少年の頃の話になった。「市長さん、大河内伝次郎や嵐寛寿郎はいいですね。ラジオで聞いていましたよ!」「はい、丹下左膳や鞍馬天狗ですね」「そうそう、ハハハ…」周りの人はポカーン。ふっと小林旭の『ギターを持った渡り鳥』を口ずさむ。私も唱和する。まさに春風駘蕩。大人の風格だ。
この頃TPP加入をめぐり中国と激しく争っていた。謝代表は日本との友好を深めるため、命ある限り奮闘するという。そういう覚悟が私たちにあるだろうか。

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