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市長の手控え帖 No.174「松下幸之助の洞察力」

市長の手控え帳

大企業の不祥事が後を絶たない。ダイハツが長く車の安全性を確認する試験で不正をしていた。保険会社が「カルテル」を結び、企業向けの保険料を事前に決めていた。モラルの低さに唖然とする。東京海上火災は、これを乗り切ろうと最下位の役員を33人抜きで社長にした。この人物は将来の社長と目されており、決して"異例"の人事ではなかった。

1977年。松下電器であっと驚く人事が行われた。26人中25番目のヒラ取締役が社長に抜擢された。山下俊彦。役員になって3年、エアコン事業のことで頭がいっぱい。そこに社長にとの命が下る。晴天の霹靂!大組織を率いる力などあろう筈もない。松下家との縁もない。

ましてや一流大卒のひしめく中、自分は工業高校の出。会社の成長に大きく貢献した先輩への気兼ねもある。何よりも社長職に魅力を感じていない。好きな仕事に打ち込めればいい。幸之助は何度も要請し、山下は固辞し続けた。根競べだ。結局山下が折れた。だがいやいや引き受けたこともあり、社長就任の会見で"選んだ方にも責任がある"と言ってのけた。

 

何故山下を選んだのだろう。幸之助は丁稚の身から苦労を重ね起業。創意と工夫で一流企業に育てた。娘婿が跡を継いだ。だが"経営の神様"は繁栄の中に大企業病の兆しを見ていた。創業の精神が薄れている。リスクを取る気概がない。これは衰退への道だ!"幸之助の松下"になっていることを懸念した。

3代目が大事だ。情としては幸之助を支えてきた古参から選びたかったのだろうが、そうはしなかった。ある人物が目にとまった。彼は幸之助から最も遠い存在だった。個人の前に「会社」ありきの幸之助と、会社の前に「個人」があるとする山下。長時間労働が当然の時代に定時退社した。その時間を読書に充て視野を広げた。派閥にも関心がない。

ただ仕事は人一倍好き。ほめられなくても自分の気がすむような仕事をしたい。後世の人に恥ずかしくないことをしたい。職人気質だ。「仕事が楽しみならば人生は楽園だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」(ゴーリキー)をモットーにした。

山下は同僚や部下と苦楽を共にし、目の前の仕事に全力を傾けてきた。自ら責任を持ち、主体的に判断し、自主的に行動する時に、人は最大の力を発揮するとの信念があった。これが幸之助と共振した。地位への欲がない。押し付けない。自然に人が寄ってくる。"おもろい奴だ"。

 

幸之助は管理職会議で、リーダーに必要な3つの条件を語った。それは意表をつくものだった。まず「愛嬌」。次に「運が強そうなこと」。そして「後ろ姿」。愛嬌がある人は朗らかで前向き。自分の欠点も承知している。どこかおかしみがあり、人を和ませるユーモアがある。直情さと可愛げ。清水次郎長一家の人気者、森の石松か?"自分たちが助けてやらないと"という思いにさせる。

「運が強そう」とは、そういう雰囲気を醸していること。日露戦争が勃発!さて連合艦隊司令長官を誰にするか。時の海軍大臣山本権兵衛は、天皇陛下に東郷平八郎を推挙。「東郷は運のいい男でございます」が理由だった。期待通り、日本海海戦で歴史的勝利を収めた。

「後ろ姿」は任侠映画の高倉健だろう。"許されねぇ"。刀一本ひっさげ独りで殴りこむ。周りの人の心に波紋が起きる。何を想い、何をしようとしているのか伝わる。背中で語る。それは、時に情理を尽くした言葉以上に人を動かす。

山下の目は澄んでいる。滅びゆくものの最大の原因は傲りであり、守りの姿勢であることを承知していた。山下は幸之助の理念を守りつつ、見事に環境の変化に対応した。幸之助は、山下に自分の思い描くリーダーの資質を見出した。幸之助の偉さは人間の洞察力にあった。

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