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市長の手控え帖 No.191「飾らない女優さん」

市長の手控え帳

倍賞千恵子が映画の功績を認められ芸術院会員に選ばれた。『男はつらいよ』は渥美清の天才的演技に負うところ大だが、兄を支える"さくら"の存在なくして国民的映画にはならなかった。民子三部作も印象に残る。悲しみや不条理に耐え、額に汗して家族を支える主婦の役。

『家族』長崎の炭鉱から北海道への移住を決める。高度経済成長の真っ只中。大阪は万博で賑わうが、目をくれる余裕もない。東京で長女を亡くす。夫を励まし、老父と子供を抱え酪農に夢をはせる。『故郷』瀬戸内の小島で貧しくも穏やかに暮らす一家。砕石の運搬で生活していたが、船を修理する金がない。やむなく尾道の造船所に勤める。涙をこらえ島を離れていく。経済の大波は故郷を奪い、つつましい生活を押し流していく。

『遙かなる山の呼び声』夫を亡くし、子供を育てながら酪農を営む。ある日、中年の男がふらっと現れる。黙々と働く。息子はすぐに懐き、民子も次第に好意を寄せる。ある晩人を殺したことを告げる。パトカーが迫る。網走に送られる列車の中、出所を待つと黄色いハンカチを渡す。

 

『幸福の黄色いハンカチ』は秀逸。山田監督はアメリカの曲『幸せの黄色いリボン』から着想を得た。刑期を終えた男が帰郷。妻に"まだ待っていてくれるなら樫の木に黄色いリボンを結んでおいてくれ"と手紙を書く。出所した男と若い男女の恋をからめたロードムービーになる!待つ女は倍賞と決めている。

物語はシンプル。だからこそ、出所した男を演ずる俳優が大事。ある時、天の啓示のように高倉健が降りてきた。任侠ものは好まないが、高倉のだけは見ていた。心を映す眼に魅了された。神に命ぜられて俳優になったような高倉。庶民の哀歓を演じたら天下一品の倍賞。さて、両名優の持ち味をどう引き出そうか。

狂言回しの若い男女。失恋の痛手から北海道へ向かう欽也に武田鉄矢。どう生きたらいいか悩み、北を旅する朱美に桃井かおり。自然な笑いを誘う。赤いファミリアの欽也。網走で朱美を誘う。同じ頃、出所した島勇作は食堂に入る。

「ビール!」メニューをにらみ「ラーメンとかつ丼」。コップのビールをじっと見つめ、やがてわしづかみにして一気に飲み干す。身体の震えを必死にこらえ、目から涙がこぼれ落ちる。迫真の演技!郵便局で、元妻の光枝に葉書を書く。「俺を待っていてくれるなら、鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを下げておいてくれ」

 

網走の海岸で勇作に会う。3人の旅が始まる。赤い車は夕暮れの阿寒湖を抜け町中の小さな旅館に。空きがなく2人は相部屋に。ドタバタ!…青春の滑稽さがよく出ている。勇作が欽也を叱る「おなごは咲いた花のごとく脆く毀れやすいもんじゃ。男は守ってやらないけん」。

行き先も告げずおし黙っている男。訳ありだ!やがて重い口を開く。折々に回想シーンが入る。筑豊の閉山で夕張に来た。スーパーのレジで働く光枝に出会う。粗野で不器用だが真心は伝わる。結婚。勇作は庭先に高い物干し台を作る。子供が流産。痛飲しチンピラと喧嘩になり殺してしまう。6年の刑。面会所で離婚届を渡す。帰りを待つと泣く光枝。

夕張へ行こうよ!イキイキする2人。見慣れた山々が近づく。耐えきれず「引き返そう。行っても無駄だ」。欽也は「ここまで来て女々しいこと言うなよ」。銭湯の前。朱美があたりを見回す。目の先に、旗竿にびっちり連なる黄色いハンカチ!歩き出す勇作。洗濯物を抱えた光枝。何言か話しかける勇作。泣き崩れる光枝。人間の愛と信頼の物語になっている。

ひたむきな倍賞千恵子と人生の旋律を鮮やかに奏でられるのは、渥美清か高倉健だろう。決して華やかさはないが、確かな演技で日本映画の品質を保っている。私は『下町の太陽』からのファンです。

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